実は大都市圏ほど深刻な「空き家問題」 東京都では空き家の87%が共同住宅で近隣者への影響も懸念(2024年5月15日『マネーポストWEB』)

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高齢者の単身世帯の増加が空き家問題の深刻化に拍車をかけている(写真は高齢者サポートなどを話し合う孤独・孤立対策推進本部/時事通信フォト)
 
 全国で「空き家」が増え続けていることが問題となっている。直近の統計では、その数は約900万戸にも達し、地方によっては5軒に1軒超が空き家になるまで深刻化している。だが、人口減少時代の社会経済問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏によれば、この問題は過疎化が進む地方圏だけの課題ではなく、大都市圏でも、今後ますます事態が悪化する可能性があるという。その深刻な現実をレポート。【前後編の前編。後編を読む
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 空き家が増え続けている。総務省が5年ぶりに実施した住宅・土地統計調査(2023年10月時点)の速報集計によれば、前回調査(2018年)より約50万6000戸増えて過去最多の899万5200戸となった。国内の住宅総数に占める割合(空き家率)も過去最高の13.8%を記録した。
 都道府県別の空き家の割合は、和歌山県徳島県が同率トップ(21.2%)だ。山梨、長野、高知、鹿児島の各県も20%を超えており、空き家問題は人口減少が加速する「地方圏の課題」といった印象を受ける。
 だが、実数で順位付けすると、89万7900戸の東京都が最多だ。大阪府(70万3300戸)、神奈川県(46万6200戸)、愛知県(43万3200戸)が続く。
 これら4都府県に、東京圏の埼玉県(33万3200戸)、千葉県(39万3400戸)および大阪府と一体的な生活圏を築いている兵庫県(38万5000戸)を含めた三大都市圏の7都府県で計算すると、全国の空き家の40.2%にあたる361万2200戸となる。空き家問題は、住宅の多い大都市圏の課題でもあるのだ。
建物と住民「2つの老い」が深刻化
 大都市圏の空き家は、マンションやアパートといった共同住宅が“主役”だ。空き家といえば、「朽ち果てた一戸建ての木造住宅」とのイメージを抱きがちだが、実は全体の55.8%が共同住宅(502万3500戸)なのである。東京都(87.5%)や大阪府(72.8%)はかなり高い数字となっている。
 共同住宅の空き家は、一戸建てと比べて近隣者に影響を及ぼしやすい。大規模修繕や建て替えに向けた居住者の合意形成を難しくするためだ。高齢者が孤独死し、相続した所有者が不明となるケースは少なくないが、管理費や修繕積立金の支払いが滞ることになれば資金計画に大きな狂いが生じる。
 計画通りのメンテナンスができなければ資産価値が下がるだけでなく、外壁の剥離などによって思わぬ事故やトラブルが発生することにもなりかねない。
 そうでなくとも、国土交通省によれば2022年末時点で築40年以上のマンションは125万7000戸あるが、2042年末には445万戸に増える見込みである。建物と住民の双方が“高齢化”する「2つの老い」が深刻化している。
 空き家は今後、さらに増える見通しである。野村総合研究所は2038年には空き家率が21.2~32.0%に上昇すると試算している。
 一方、住宅・土地統計調査で過去の空き家率の推移を確認すると、前々回調査(2013年)が13.5%、前回調査(2018年)は13.6%だ。今回調査で過去最高を記録したといっても13.8%であり、前回と比べて0.2ポイント上昇したにすぎない。
 頭打ち状態に見えるのにはカラクリがある。分母である住宅総数が、空き家数以上に増えているのだ。
要因の1つは「賃貸用・売却用」住宅の増加
 2018年と2023年を比較すると、空き家は約50万6000戸増えたが、住宅総数は5倍以上の約261万4000戸増だ。空き家の実数は毎年平均10万戸ペースの勢いで増え続けているのに、それを上回る分母の拡大が上昇率を極めて緩やかなものに見せているのである。
 今後、空き家を増やす要因は大きく2つある。1つは、「住むことを目的としていない住宅」の増加だ。賃貸用や売却用の空き家が多いのである。
 住宅・土地統計調査で空き家総数が過去最多の899万5200戸を記録したといっても、これには賃貸・売却用や別荘などが514万2500戸(うち別荘などは38万2900戸)含まれている。居住者や利用者がいない実質的な「放置空き家」は385万2700戸にとどまる。いわば、供給過剰と言える状況なのだ。
 少子化で住宅取得の中心世代である30~40代が減少傾向にあるのに、新築住宅がどんどん提供されているのだから当然だが、住宅デベロッパーにしてみれば「需要があるから建て続けている」ということである。
 人口減少下でも需要が拡大している背景には日本人の“新築信仰”の強さに加えて、物件価格の上昇が見込める大都市の中心市街地などの物件に国内外の投資マネーが流れ込んでいることがある。年配の富裕層が相続税対策としてセカンドハウスを購入する動きが大きくなっていることも需要を押し上げている。
 投資マネーが大都市の物件に流れ込んでいることは、三大都市圏の7都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府兵庫県)の空き家の3分の2が賃貸や売却用で占められていることが証明している。これらの中には思うように売り抜けず、“塩漬け”となっている物件も含まれよう。このような「住むことを目的としていない住宅」もまた「放置空き家」に転じやすい。
2050年には5軒に1軒が「高齢者の1人暮らし」
 もう1つの要因は、1人暮らし世帯の増加だ。今後はこちらの要因のほうがウエートを増しそうである。
 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2024年)によれば、2050年の世帯総数は5260万7000世帯で、2020年(5570万5000世帯)より309万8000世帯少なくなる見通しだ。ところが、1人暮らし世帯は2020年の2115万1000世帯から2050年の2330万1000世帯へとむしろ215万世帯も増えるというのである。
 1人暮らし世帯の中でも、とりわけ伸びるのが高齢者世帯である。2050年には1083万9000世帯となり、1人暮らし世帯全体の46.5%に及ぶという。全世帯に占める割合で計算し直すと20.6%だ。2050年の日本は、5軒に1軒が高齢者の1人暮らし世帯という極めていびつな社会になる。
 1人で暮らしている高齢者の中には、別居する親族はいるという人も少なくない。しかしながら、今後は身寄りのない人が増えそうだ。未婚の高齢者が多くなってきているのである。その結果、空き家の拡大が加速する可能性もある。
 
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授大正大学客員教授産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。