岸田首相「したたか説」は本当か?=飼手勇介(政治部)(2024年5月12日『毎日新聞』)

キャプチャ
グループの会合を終え、記者団の取材に応じる立憲民主党小沢一郎氏=衆院第1議員会館で2023年11月21日午後1時1分、竹内幹撮影
 政治資金パーティー裏金事件の影響もあり、内閣支持率が長らく低迷する岸田文雄首相は、次の衆院選の「顔」としては不足。9月の党総裁選までに衆院解散・総選挙に打って出ることもできず、もう交代だろう。
 こんな見方が永田町で広がる一方、それに警鐘を鳴らす議員がいる。「剛腕」「壊し屋」の異名をとり、かつて自民党の権力闘争の中枢にいた立憲民主党小沢一郎衆院議員だ。
 「岸田総理を甘く見ちゃダメだよ」。小沢氏は3月下旬、記者団にこう語り、「清和会(安倍派)をズタズタにやっつけて、今度は二階(俊博元幹事長)を引退に追い込んだ。ものすごくしたたかだよ」と警戒感をあらわにした。早期解散の可能性を問う記者団には「(党内に)敵、いねえもん誰も。再選確実なのになんで解散するの?」と語り、総裁選で岸田氏が再選、衆院解散はその後との見立てを披露した。
 確かに、党内最大派閥として影響力を持ち続けた安倍派で「5人衆」といわれた実力者たちは、いずれも裏金事件を巡る党の処分を受け、表舞台に当面立てない状況に追い込まれた。
 特に、国会の代表質問で「国民が期待するリーダーの姿が示せていない」と岸田首相を厳しく批判した世耕弘成参院幹事長は離党勧告、「ポスト岸田」に意欲を示していた西村康稔経済産業相党員資格停止1年と厳しい処分結果になった。
 岸田首相と政治的に距離があった二階氏は「岸田さんから裏金事件で処分されるくらいなら」(二階氏周辺)と、自ら次期衆院選への不出馬を表明し、事実上の引退を宣言。二階氏は1993年に小沢氏とともに自民党を離党して新生党の結党に関わるなど、小沢氏を側近として支えた。小沢氏は、かつての子分を「二階も岸田くんに劣らずしたたかだけど、彼の今の状況ではかなわんのかなあ」と振り返った。
 岸田首相の一般的なイメージは、真面目でいい人そう、悪く言えば歯切れが悪く迫力不足……だろうか。裏金事件の逆風にさらされ、右往左往しているようにも見える首相の「したたか説」は当たっているのか。
 本人に「狙った通りの結果ですか?」と尋ねてみたが、当然ながら「(対抗馬を)追い込むとか潰すとか、そんなつもりはない。一つ一つやるべきことをやった結果だ」とかわされた。
 首相の内心を探る上で参考になる言葉を、小沢氏が師と仰いだ田中角栄元首相が残している。
 「首相になって一度は口にしたいのが派閥解消」
 党内の実力者とどう折り合いをつけながら政権を運営するかが、歴代首相の悩みのタネだったことがうかがえる。そうみると、岸田首相が先陣を切って打ちだした「派閥解散」もしたたかな一手にみえてくる。
 首相による岸田派解散宣言を受け、…