昭和初期の建物を利用した横浜都市発展記念館に…(2024年5月14日『毎日新聞』-「余録」)

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第46回毎日芸術賞特別賞を受賞し、贈呈式であいさつする小山内美江子さん=東京都内のホテルで2005年1月28日、尾籠章裕撮影
 
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TBS「3年B組金八先生」は第46回毎日芸術賞特別賞を受賞した。贈呈式に出席した(左から)小山内美江子さん、プロデューサーの柳井満さん、主演の武田鉄矢さん=東京都内のホテルで2005年1月28日、尾籠章裕撮影
 
 昭和初期の建物を利用した横浜都市発展記念館に一部が焦げた金庫の内箱が所蔵されている。キリ製の箱は1945年4月の鶴見空襲で焼け残った。94歳で亡くなった脚本家の小山内美江子さんが寄贈した
▲女学校から勤労動員に駆り出された15歳の少女は夜間、B29の爆撃から逃げ惑った。実家の焼け跡には金庫だけが残され、内部の箱を取り出したという。戦争に振り回された体験が「15歳」にこだわった原点だ
▲脚本を手がけた79年からの「3年B組金八先生」はかつての自分と同じ年代の生徒たちのクラス。武田鉄矢さん扮(ふん)する熱血教師は「今この瞬間、本当に命を落としている少年がいる」と語りかけた
▲3年後の同窓会を舞台にしたスペシャル番組では生徒たちが憲法条文を順に読んだ。「今はできないね。偏向番組とやられる」。そう語っていたのは20年近く前だ。「戦争が何を生むのか、想像力が足りない」と改憲の動きを懸念していた
▲過去だけを見ていたわけではない。25年にわたって校内暴力など学校が直面する問題を真正面から取り上げた。「15歳の母」や「腐ったミカン」などの流行語を生み、性同一性障害の存在をお茶の間から広めた
▲還暦を迎えた90年の湾岸戦争に衝撃を受け、ヨルダンの難民キャンプに赴いた。これを機に戦地だったカンボジアなどに学校を作る活動を始め、ボランティアの学生を育てた。「3年B組」の最初の生徒たちも今や還暦。小山内さんをロールモデルにする猛者の登場に期待したい。