国立劇場建て替え難航 計画見直し検討すべきだ(2024年5月14日『毎日新聞』-「社説」)

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国立劇場の外観デザインは、正倉院の校倉造りを基調にしている=2023年10月19日、濱田元子撮影
 
 国立劇場の再整備事業が行き詰まっている。建て替えのために閉場して半年がたったが、事業者さえ決まっておらず、再開場時期は見通せない。
 歌舞伎や文楽、日本舞踊などの伝統芸能を保存、継承する場として1966年に開場した。79年には隣接して国立演芸場もできた。
 老朽化した劇場は当初、大規模改修される予定だった。
 だが、2020年に政府のプロジェクトチームがまとめた再整備計画で、文化観光拠点としての集客機能が重視された。民間の資金やノウハウを活用するPFI方式を採用し、ホテルやレストランなど収益施設も併設される。
 背景にあるのが、政府の成長戦略の一環として、文化政策が保護から活用重視に転換したことだ。17年に成立した文化芸術基本法では、文化と観光、まちづくり、産業との連携推進が示された。
 しかし、計画は思うように進んでいない。29年度の再開場を目指し、これまで入札を2回行ったが不調に終わった。劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)によると、資材価格の高騰や人手不足、収益見通しの不透明さがネックになっているという。
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 そもそもPFIは、公共施設の運営を民間に委ね、行政の効率化やコスト削減を図るものだ。収益が見込めなければ、事業者にとって参入するメリットはない。
 入札不調が続くのは、現行の計画が国立劇場の建て替えになじまないからではないか。
 芸文振は3回目の入札を目指しているが、有識者からは「PFIだけに頼るのは厳しい状況だ」との声も上がっている。
 取り壊しすら始まらない中、閉場による「空白」の長期化が及ぼす影響に懸念が強まる。
 劇場が手がける公演は、公共や民間のホールで代替されているが、場所が次々と変わったり、期間が短縮されたりしている。演者らは「公演が減って、演奏者や裏方の廃業が増え、芸能全体が衰退しかねない」と危惧する。
 国民が芸に触れる機会も減る。日本の伝統文化に興味を持つ外国人観光客が増える中、国の「顔」ともいうべき劇場がないのは残念だ。計画の抜本的な見直しを検討する時だ。