国立劇場の再整備事業が行き詰まっている。建て替えのために閉場して半年がたったが、事業者さえ決まっておらず、再開場時期は見通せない。
老朽化した劇場は当初、大規模改修される予定だった。
だが、2020年に政府のプロジェクトチームがまとめた再整備計画で、文化観光拠点としての集客機能が重視された。民間の資金やノウハウを活用するPFI方式を採用し、ホテルやレストランなど収益施設も併設される。
しかし、計画は思うように進んでいない。29年度の再開場を目指し、これまで入札を2回行ったが不調に終わった。劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)によると、資材価格の高騰や人手不足、収益見通しの不透明さがネックになっているという。
そもそもPFIは、公共施設の運営を民間に委ね、行政の効率化やコスト削減を図るものだ。収益が見込めなければ、事業者にとって参入するメリットはない。
入札不調が続くのは、現行の計画が国立劇場の建て替えになじまないからではないか。
取り壊しすら始まらない中、閉場による「空白」の長期化が及ぼす影響に懸念が強まる。
劇場が手がける公演は、公共や民間のホールで代替されているが、場所が次々と変わったり、期間が短縮されたりしている。演者らは「公演が減って、演奏者や裏方の廃業が増え、芸能全体が衰退しかねない」と危惧する。
国民が芸に触れる機会も減る。日本の伝統文化に興味を持つ外国人観光客が増える中、国の「顔」ともいうべき劇場がないのは残念だ。計画の抜本的な見直しを検討する時だ。