避難所でも「家事」は女性? 炊き出しやトイレ掃除を任せられる実態 解決のかぎは…(2024年3月8日『東京新聞』)

 

 3月8日は国際女性デーです。
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 能登半島地震の避難所では避難者自身が運営を担い、家事と同様に炊き出しやトイレ掃除などを主に女性が任されがちな実態が浮き彫りとなっている。被災地で支援活動に参加した専門家は、男女の固定化しているような役割分担が女性に負担を掛けている面があると指摘し、改善を促している。
 
避難所で過ごす被災者たち=石川県穴水町で(小山内さん提供)

避難所で過ごす被災者たち=石川県穴水町で(小山内さん提供)

◆石川・穴水町の避難所を専門家が訪れると

 ジェンダー(男女の社会的性差)視点を取り入れた防災教育を提唱する青森市の一般社団法人「男女共同参画地域みらいねっと」代表理事の小山内世喜子(せきこ)さん(66)は、1月と2月に石川県穴水町の避難所で活動した。1月14~17日に1人で、2月1~6日は法人スタッフと訪れ、運営を支援した。
 1月の訪問時は、避難所になっていた中学校に約60人が身を寄せ合っていた。互いに見知らぬ者同士で、比較的元気な30~50代の女性10人が運営を担うことになった。断水で流れないトイレの掃除や支援物資の配布など慣れない作業に疲れを隠せない様子だった。男性もいたが、「妻が避難所の仕事を手伝っていて大変そうだ」と言った。
小山内世喜子さん

小山内世喜子さん

 炊き出しの支度も女性が担いがちだった。小山内さんは「『家事は女性がするもの』という意識があると女性がやらざるをえなくなる」と指摘する。そこで小山内さんはホワイトボードに起床や食事など生活時間を書き出し、食事の準備や物資の配布、掃除をする人を募り、男女で協力できる態勢をつくった。

◆「ジェンダー視点の第三者」が関りを

 2月に再び訪れた時は、林業センターでの避難所の開設・運営を手伝った。役割分担やルールをつくる会議に参加。第三者の小山内さんが加わることで、女性が意見を言いやすくなると考えたからだ。掃除や炊き出しをしていた女性がどうすればいいか提案したくても、地域のリーダーの男性を前にすると、言いづらいこともあり、女性が担うことになってしまった。
 小山内さんは「ジェンダー視点を持った第三者が関わることで改善に近づけられる。センターでは、第三者の私が、掃除などの当番を決める際、男性も一緒にやりましょうと言えばもっと改善できたと思う」と振り返った。(砂上麻子)

◆一方で「男女の役割がうまく回っている」避難所も

 能登半島地震の避難所を取材すると、男女の協力について改善は難しいとした意見がある一方、男女の役割分担がうまくいっていると手応えを指摘する声もあった。
 七尾市内のある避難所では、避難者自身が共有トイレの掃除をする。避難所で過ごす女性(74)は「最初は自分がやっていたが、今は毎朝、50代の女性がやってくれている」とありがたがる。一方で「じいちゃんたちは体が動かないし、『やりなさい』と言う年でもない。男性に働きかけるのは難しいと思う」と打ち明ける。
 市内の別の避難所では、給油や支援物資の運搬など力仕事は男性が中心になり、掃除や支援物資の管理など細かい作業は女性を中心に担っている。被災者のまとめ役を務める50代女性は「男性が率先して力仕事をやってくれて助かっている。役割分担を決めているので、人が減っていってもうまく運営が回っている」と語った。
 穴水町の避難所にいる40代女性は「男性の方も掃除や炊事をしてくれてありがたい」と話す。避難者は高齢者が多く、動くメンバーは固定化されているというが、「炊事する人の中にはボランティアの男性もいて頼もしい」と感謝した。
 町内の別の避難所で過ごす女性(74)は「男の人には力仕事もしてもらえて助かっている」。避難所ではグループごとに掃除をしており、「鍋を洗ってもらったり、トイレ掃除も率先してやってもらったりした」と話した。(大野沙羅、山脇彩佳)