護衛艦の空撮 基地警備の脆弱さにあきれる(2024年5月14日『読売新聞』-「社説」)

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 ドローンの侵入を許して、護衛艦の甲板近くまで空撮されるとは。自衛隊の警備のお粗末さにはあきれてしまう。
[ 防衛省は全国の基地で警備体制に抜かりがないか点検し、対策を強化すべきだ。
 中国の動画投稿サイトに3月下旬、神奈川県の海上自衛隊横須賀基地に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンで撮影したとする動画が載り、SNSで拡散した。
 防衛省内では当初、基地にはドローンの探知機能があるため、本物の動画のはずがないという見方が多かった。だが、先週になって木原防衛相は「実際に撮影された可能性が高い」と発表した。
 関係者によると、中国人がいたずら目的で撮影した模様だ。
 横須賀基地には海自の司令部機能が集まっている。もしドローンが攻撃型で、爆弾を落としていたらただ事では済まされなかった。警備が 脆弱ぜいじゃく で、ドローンを捕捉できなかったという事実は重い。
 横須賀基地とその周囲300メートルの上空は、小型無人機等飛行禁止法で管理者の許可なくドローンを飛ばすことが禁止されている。再発防止のためにも、防衛省と警察当局は撮影者を摘発すべきだ。
 全長248メートルのいずもは、海自が保有している51隻の護衛艦の中でも「かが」と並んで最大だ。現在は最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の発着艦を可能にするための改修を進めている。
 SNSにはまた、米海軍横須賀基地に停泊中の米空母「ロナルド・レーガン」とみられる空撮動画も投稿された。
 横須賀は、米国外にある米軍基地のうち、唯一の空母の拠点だ。日本の技術者は質の高い保守・点検機能を提供しており、米国から信頼されている。日本側の落ち度でドローンの侵入を防げなかったことは、ゆゆしき事態だ。
 防衛省が、動画の真偽を確かめるのに1か月以上を要したことも問題だ。木原氏は「動画が加工、 捏造ねつぞう された可能性を含め、慎重に分析した」と釈明した。
 最近は、生成AI(人工知能)を使って誰もが簡単に巧妙な偽動画を作れるようになった。
 真偽不明の情報が氾濫する中、判断を誤ったり、正確に事態を見極めるのに時間がかかったりしてしまう。今回は、その危険性が現実のものになったと言える。
 偽情報や偽動画を流して他国の世論に影響を与えようとする「情報戦」が世界中で行われるようになった。情報の分析能力の向上もまた、重要な課題である。