同性カップルの権利に関する社説・コラム(2024年3月28日)

権利守る法整備速やかに/同性パートナー巡る判決(2024年3月28日『東奥日報』-「時論」)


 20年以上も生活を共にしたという同性パートナーを殺人事件で失った男性が犯罪被害者等給付金支給法に基づく遺族給付金を受け取れるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は「同性カップルも支給対象」とする初判断を示した。同性同士を理由に支給の対象外とした二審名古屋高裁の判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

 犯給法は犯罪被害者の遺族に給付金を支給すると規定。婚姻届を出していなくても「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」を対象に含めるとしている。法律婚だけでなく事実婚にも救済を広げる狙いがあり、訴訟では同性間の関係もこれに含まれると解釈できるかが争点となった。

 最高裁判決は、異性間のみが婚姻制度の前提になっているとして同性間の事実婚は認められないとした下級審の判断を覆した。ただし原告の男性が事実婚といえる状況にあったかを判断するため、差し戻した。各地で、同性婚を認めない民法などの規定は違憲同性カップルが訴えを起こし、違憲違憲状態の判決が相次ぐ中、今回の判断は影響を及ぼしそうだ。

 性的指向性自認は本人の考えや努力で変えられるものではなく、それゆえに不利益が生じるのは看過し難い。だが国会の動きは鈍い。性的少数者の権利を守るため、速やかに法整備に取り組むことが求められよう。

 男性は同性パートナーを殺害され、愛知県公安委員会に遺族給付金を申請したが、同性同士を理由に不支給裁定を受け、2018年に提訴。「犯罪被害でパートナーを失う経済的、精神的損害は異性、同性のカップルで差異はない」と訴えた。しかし一、二審判決はいずれも退けた。

 最高裁大法廷は昨年10月、自認する性別が出生時の性別と異なるトランスジェンダーによる戸籍上の性別変更に際し、生殖能力を失わせる手術を求める性同一性障害特例法の規定を違憲、無効とする決定をした。その少し前には、トランスジェンダー経済産業省職員が職場でトイレ使用を不当に制限されたと国に処遇改善を求めた訴訟で、職員の逆転勝訴となる最高裁判決も出ている。

 今回の判決も、こうした性的少数者を擁護する司法判断の流れの中に位置付けることができるだろう。また同性婚訴訟では、札幌高裁判決が婚姻の自由を定めた憲法の条項について「同性婚も保障すると理解できる」との判断を示している。

 一方、東京都渋谷区と世田谷区が15年、同性カップルを婚姻に相当する関係と公認する同性パートナーシップ制度を導入して以来、各地に同様の制度が広がってきた。犯罪被害者の遺族らに給付する支援金や、災害で亡くなった人の遺族に支給する弔慰金の対象に同性パートナーを含めている自治体は少なくない。

 さらに同性パートナーを配偶者として扱い、扶養手当や休暇などを認める自治体や民間企業も増えつつある。そんな中で手をこまねいているのは国会だけだ。怠慢のそしりは免れないだろう。

 問題はまだある。日弁連の調べでは、犯給法と同じ文言で公的な給付の対象などを規定する法令は厚生年金保険法労働者災害補償保険法、公営住宅法など200以上に上る。同性同士を理由に不利益を被ることがないよう、適用の是正などの対応も必要だ。

 
同性カップルの権利 保護する法整備を早急に(2024年3月28日『毎日新聞』-「社説」)
 
最高裁判決を受け、「同性パートナーを犯罪被害者遺族と認める」と書かれた紙を掲げる原告側=東京都千代田区で2024年3月26日午後3時52分、前田梨里子撮影
最高裁判決を受け、「同性パートナーを犯罪被害者遺族と認める」と書かれた紙を掲げる原告側=東京都千代田区で2024年3月26日午後3時52分、前田梨里子撮影

 愛する人を奪われた悲しみや苦しみは計り知れない。カップルのかたちによって、法的な扱いが変わる現状は理不尽だ。

最高裁判決を受けた記者会見後に柔らかな表情を見せる原告の内山靖英さん(中央)=東京都千代田区で2024年3月26日午後5時34分、前田梨里子撮影
最高裁判決を受けた記者会見後に柔らかな表情を見せる原告の内山靖英さん(中央)=東京都千代田区で2024年3月26日午後5時34分、前田梨里子撮影

 国の犯罪被害給付制度に基づき、遺族が受け取れる給付金について、同性カップルも対象になり得るとの判断を最高裁が示した。

 配偶者らに支給されるものだ。「事実上婚姻関係と同様の事情にあった人」も含まれると法律に明記されている。

 原告の男性は、約20年連れ添った同性のパートナーを、10年前に殺害された。

 愛知県公安委員会に遺族給付金を申請したが、同性同士であることを理由に不支給とされた。不服として提訴したものの、1、2審では訴えが退けられていた。

 同性カップルが対象とされてこなかったのは、日本では同性婚が認められていないからだ。

 最高裁判決は制度の目的について、犯罪被害者の死亡で受けた精神的、経済的打撃を早期に軽減することだと指摘した。その必要性は「被害者と共同生活を営んでいた人が、異性か同性かで異ならない」と認めた。

 同性同士というだけで対象外とするのは、制度の趣旨に反すると結論づけた。当然の判断である。

 日本弁護士連合会によると、事実婚の人も法律上の配偶者と同様に扱うとする規定は、200以上の法令にある。遺族厚生年金や労災の遺族補償年金の支給、健康保険法による給付などだ。

 判決で裁判長は、あくまでも犯罪被害給付制度に関する判断であり、他の制度については、それぞれの趣旨に照らして解釈を検討すべきだとの補足意見を付けた。

 だが規定は、婚姻届を出していなくても、互いに助け合って共同生活を送るカップルの権利を守るために設けられたものだ。

 同性か異性かを問わず、そうした生活実態に即して適用されるのが筋である。それは、今回のケースだけにとどまるものではないはずだ。

 ただ、事実婚として扱われるだけでは不十分だ。税や親権、相続などの面で不利益を受ける状況は変わらない。

 権利の保障を担保するには、法律で同性婚を認めることが不可欠である。

 

同性婚訴訟 「違憲」是正へ議論が必要(2024年3月28日『山陽新聞』-「社説」)

 同性婚を認めない民法と戸籍法の規定が憲法違反かどうかが争われた一連の訴訟で、初の高裁判断となった札幌高裁が今月、「違憲」とする判断を下した。

 同種の訴訟は2019年から同性カップルらが全国の5地裁で計6件起こした。今月までに出そろった地裁判決は「違憲」が2件、「違憲状態」が3件、「合憲」は1件だった。合憲の1件も「将来的に違憲となる可能性がある」と指摘している。

 性的多様性を尊重する司法の流れは、より鮮明になっているといえるだろう。おとといは犯罪被害者給付金を巡る訴訟で、最高裁が支給対象に同性パートナーも該当し得るとの初めての判断を示した。

 同性婚が認められていないことについて、札幌高裁は法の下の平等を定めた憲法14条1項、婚姻の自由を定めた24条1項、個人の尊厳に立脚した立法を求めた同2項のいずれにも違反すると断じた。憲法の制定当時、同性間の婚姻は想定されていなかったものの、社会の変化に伴い、「個人の尊重がより明確に認識されるようになったとの背景のもとで解釈することが相当」との見解を示した。

 400近い自治体で同性カップルを公的に認定するパートナーシップ制度の導入が進んでいるものの、法的効力に限界があることも指摘した。

 同性カップルは、異性間の婚姻では認められる税の優遇措置を受けられないなどの不利益がある。高裁判決はそうした日常生活の不利益だけでなく、同性愛者がアイデンティティーの喪失感を抱き、人格が損なわれる事態となっていることにも言及している。

 さらに「付言」として、同性婚に対しては国民の間に反対意見があることも踏まえた上で、この問題は国民の意見統一を求めるものではなく、個人の尊厳に関わる喫緊の課題だと指摘。早急な対策が必要として、立法府に真摯(しんし)な議論と対応を求めた。

 札幌高裁の判決を受け、連立政権を組む公明党同性婚を容認する法整備に前向きな考えを示した。一方、岸田文雄首相は「引き続き(同種訴訟の)判断を注視したい」と述べるにとどまり、自ら議論を主導する姿勢は見えない。

 世界では30を超える国や地域が同性婚を認め、先進7カ国(G7)で同性カップルの法的保障がないのは日本だけだ。昨年5月、広島市で開かれたG7サミットでは「性自認性的指向に関係なく差別のない人生を享受できる社会を実現する」との首脳声明が採択された。議長を務めたのは岸田首相である。

 今後、各地で控訴審判決が続き、いずれ最高裁が統一判断を示すとみられるが、相当の年数を要するだろう。性的少数者の人権を尊重する司法の流れが強まる中、現状をこれ以上放置することは許されなくなっている。政府や国会は早急に同性婚の法制化に向けた議論を始めるべきだ。