同性パートナー 権利守る法整備が必要だ(2024年3月30日『熊本日日新聞』-「社説」)

 犯罪で愛する人を失う精神的、経済的な苦しみに、カップルのかたちは関係ない。同性のパートナーだから救済されないというのは、どう考えても理不尽だ。一連の裁判は、同性カップルの権利を守る法整備の必要性を浮き彫りにしたのではないか。

 20年以上同居していた同性パートナーを殺害された男性が「配偶者」として犯罪被害者給付金を受給できるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は支給対象の「事実上婚姻関係と同様の事情(事実婚)にあった者」に、同性パートナーも該当し得るとの初判断を示した。

 同性の場合は支給対象外とした二審名古屋高裁判決を破棄し、審理を差し戻した。今後は、男性がパートナーと事実婚の状態と言えるかどうかが検討される。

 犯罪被害者給付金は、支給対象となる被害者の配偶者に「事実婚の相手を含む」としている。この規定に、同性パートナーも該当するかが焦点だった。

 最高裁判決は「被害者と共同生活を営んでいた者が異性か同性かで給付金の必要性が異なるものではない」と指摘した。遺族の精神的、経済的打撃を軽減する給付金制度の趣旨に照らして考えれば、極めて妥当な判断と言える。

 2014年にパートナーを殺害された原告の男性は、愛知県公安委員会に被害者給付金を申請した。しかし、同性同士であることを理由に不支給とされた。不服として提訴したが、一、二審では「婚姻関係とする社会通念が形成されていない」「婚姻、配偶者は異性間の関係のみを意味する」などの理由で退けられた。

 日本の現行法は結婚を「両性の合意にのみ基づいて成立」とし、同性婚を認めていない。だが、社会意識は時代と共に変化している。昨年の世論調査では、7割超が「同性婚を認める方がよい」と回答。同性婚を巡る訴訟でも、認めないのは「違憲」「違憲状態」とする判断が地裁で相次ぎ、初の控訴審判決となった札幌高裁では「人と人の自由な結び付きという趣旨で、同性婚も保障している」との判断が示された。

 性的指向は個人の自由である。全ての人が守られるべき法制度からこぼれ落ちる人がいる現状を、直視しなければならない。しかし国民の変化と比べ、政府や国会の動きは鈍い。今回の最高裁判決には「現時点では先を急ぎすぎている」という反対意見が付いたが、その理由として「同性パートナーの法的保護を巡る全般的な議論の蓄積が十分でない」ことを挙げている。国会で議論しなければ性的少数者を巡る状況は変わらないことを、肝に銘じてもらいたい。

 自治体が独自に婚姻に相当する関係と公認する「パートナーシップ制度」は全国に広がったが、法律が変わらなければ根本的な問題は解決できない。日弁連は、犯罪被害者給付金と同様の文言で「配偶者」への給付を定めた法令は200以上あると指摘している。早急な改善を求めたい。