政治資金巡る自公案に関する社説・コラム(2024年5月11日)

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政治資金制度の改革に関して取りまとめた文書を交わした自民党茂木敏充幹事長(右から2人目)と公明党石井啓一幹事長(左から2人目)=国会内で2024年5月9日、毎日新聞平田明浩撮影
 
与党政治改革案 またザル法を作るのか(2024年5月11日『北海道新聞』-「社説」)
 
 自民、公明両党は、派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正の与党案について大筋合意した。
 焦点となっていた政策活動費は、使途公開の範囲や方法を先送りした。政治資金パーティー券購入者の公開基準引き下げも、具体的な金額を示さなかった。
 肝心の部分を意図的に曖昧にすることで、とりあえず合意の形を作ったのだろう。抜本改革とはあまりにもかけ離れている。
 議論から垣間見えるのは、いかに抜け穴を残すか、秘匿性を温存するかに腐心する姿ばかりだ。
 これだけ大きな事件を起こしながら、また「ザル法」を作ってお茶を濁すのか。過去に繰り返してきたことへの反省がなさ過ぎる。
 国会は会期末までもう1カ月余りだ。いつまでも与党の内向きな議論に時間を費やす余裕はない。
 与党は早急に野党との協議に入り、より実効性の高い野党案を軸に改革を実現すべきだ。
 自民党衆院3補選の「全敗」を受け、改革への後ろ向きな姿勢から方針転換したという。
 だが、今回の与党案を見ると、国民が突きつけた不信の大きさを理解できていないと言わざるを得ない。この程度で妥協した公明党も本気度を問われよう。
 政党から議員個人に渡される政策活動費は、使途を報告する義務がなく「領収書のいらない合法的な裏金」と問題視されていた。
 自民党二階俊博元幹事長は5年余りの幹事長在任中に50億円近くを受領した。何に使っているのか、その実態は極めて不透明だ。
 自民党は「党勢拡大」といった大まかな項目ごとに金額を公開する案を示すが、それでは具体的な使途は分からない。公開とは名ばかりのまやかしと言うほかない。
 全面公開に慎重な理由として「政治活動の自由」を挙げるが、代表者たる国会議員が国民の知る権利をないがしろにしてまで隠さねばならない活動とは何なのか。
 パーティー券購入者の公開基準は、公明党が現行の20万円超を5万円超に引き下げるよう求めたのに対し、自民党は10万円超にとどめる考えで、折り合わなかった。
 政治資金パーティーは、政策がゆがめられる懸念が強い企業・団体献金の抜け道にもなっている。
 公開基準の引き下げは当然だが、禁止を含め開催のあり方自体を見直すのが筋ではないか。
 裏金事件はきのう安倍派の会計責任者の初公判があった。大前提として、真相究明が国会の責務であることも忘れてはならない。
 
政治資金巡る自公案 「公開」に値せぬまやかし(2024年5月11日『毎日新聞』-「社説」)
 これでは政治資金の流れの透明化にはつながらない。小手先の対応でお茶を濁すようでは、与党の本気度が疑われる。
 自民、公明両党が合意した政治資金規正法の改正案である。
 自民は4月の衆院3補欠選挙での全敗を受け、公明の一部要求に応じる形となったが、改革に後ろ向きな姿勢は変わっていない。
 とりわけ問題なのが、政党から政治家個人に支出される政策活動費の扱いだ。使途の公開義務がなく、規正法の「抜け穴」となっている。
 自公案では、「選挙関係」「調査研究」などの大まかな項目と金額を、党が政治資金収支報告書に記載するという。だが、支出先は公表されず、領収書も添付しないため、具体的な使途は明らかにならない。ブラックボックスと呼ばれる不透明な実態は変わらず、「公開」とは名ばかりのまやかしだ。
 自民は幹事長ら党幹部に年10億円以上を支出している。選挙での「陣中見舞い」に使ったとの元党幹部の証言もある。裏金として選挙買収などに使われかねない。
 組織的な裏金作りを正当化する口実としても使われた。安倍派の議員は、派閥からの資金還流を収支報告書に記載しなかった理由について、「政策活動費との認識だった」と説明していた。
 自民の体質を改善するには、裏金問題の本丸にメスを入れなければならない。使途を全面公開できないなら廃止すべきだ。
 裏金作りに使われたパーティー券も踏み込まなかった。現行で「20万円超」となっている購入者の公開基準については、公明案の「5万円超」への引き下げに自民が難色を示し、金額を明示できなかった。個人献金は「5万円超」で公開される。パーティー券だけ例外扱いにするのは理屈が通らない。
 野党が廃止などを主張している企業・団体献金は、見直しにすら触れなかった。
 不透明なカネを温存したい自民の思惑があからさまだ。「クリーンな政治」をうたう公明も、安易に妥協しては存在意義が問われる。
 後半国会で最大の焦点となる。自民は審議を通じ、野党の意見も取り入れるべきだ。抜本改革に本気で取り組まなければ、国民の政治不信は払拭(ふっしょく)できない。
 
政治改革の与党案 議員の責任強化を確実に(2024年5月11日『産経新聞』-「主張」)
 
 自民、公明両党は、自民派閥の政治資金パーティー収入不記載事件を受けた政治資金規正法の改正内容について大筋で合意した。
 
 再発防止に向け、国会議員の責任と罰則を強化する内容だ。ただし、政治資金の透明性確保について詰め切れていない部分が残っている。協議を継続し、来週には野党に提示しなければならない。 
 与党案では議員に対し、会計責任者が作成した政治資金収支報告書が適法であることを証明する「確認書」の交付を義務付けた。会計責任者が不記載などで処罰され、議員の確認が不十分と認められた場合、公民権停止になる。
 現行法の規正法が「ザル法」と呼ばれるのは、会計責任者や秘書に責任を押し付け、議員は責任を回避できる仕組みになっていることが大きい。規正法違反を抑止するには、議員にも責任が及ぶ連座の仕組みの導入が欠かせない。
 パーティー券購入者の公開基準額は現行の20万円超から引き下げる。ただ、具体的な金額は自公で折り合わず、与野党協議に持ち越しとなる見通しだ。
 政党から議員に支出される政策活動費については議員が使途を党に報告し、党が収支報告書に記載する。使途公開は従来義務付けていなかったものだ。
 与党合意には改革すべき重要な2つの点が抜けている。1つは税金が原資の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)について触れなかったことだ。規正法改正とは別の話だが、旧文通費の使途も公開しなければならない。
 2つ目は外国人・外国法人による政治献金が禁じられている一方で、外国人・外国法人による政治資金パーティー券購入が認められている点だ。この見直しに関する記載も与党案にはなく、残念である。
 外国人などの政治献金を禁じているのは、国政が外国勢力から影響を受けることを防ぐためだ。パーティー券購入は政治活動に対する事実上の経済支援にあたる。購入に外国人への参政権付与などを望む政治的動機があってもおかしくない。外国人・外国法人による購入は禁じるべきである。
 規正法改正を今国会で実現させるべきは当然だ。与野党が真摯(しんし)な姿勢で政治改革に取り組むことが求められる。