事件を真摯(しんし)に反省しているのであれば、率先して規正法の強化に取り組むべきであったが、自民案の作成は他党よりずれ込んだ。

 党総裁の岸田文雄首相は規正法改正について「先頭を切って進める」と明言していたはずだ。しかも、肝心な中身では、焦点である国会議員の監督責任の取り方や政治資金の透明化で、踏み込み不足が目立つ。

 これでは深刻な政治不信を招いた当事者意識があるのか疑わざるを得ない。

 今後、自民は公明党との間で与党案をまとめ、6月に閉会する今国会中の規正法改正を目指して野党との協議に臨む。公明や野党の政治改革案は自民案より厳しく、自民が先送りした課題への対応も盛り込まれている。

 自民が国民の信頼を回復したいのであれば、他党案をそのまま受け入れるくらいの謙虚な姿勢が求められよう。

 自民以外の各党は、会計責任者による政治資金収支報告書の不記載・虚偽記載に、国会議員が連帯責任を負う「連座制」を導入することでほぼ一致している。

 自民案は、会計責任者が収支報告書を提出する際に、適正な内容であるとの国会議員による「確認書」添付を義務付けた。その上で、不記載などが発覚し、会計責任者が処罰されれば、議員にも刑罰を科し、公民権を停止するとした。

 ただ、議員が「会計責任者の秘書にだまされた」「どこまで確認するのか分からなかった」と主張すれば、免責される可能性がある。選挙で陣営幹部らの買収行為などに関与していなくても候補者が罪に問われる公選法連座制に比べれば、「抜け道」を残した形だ。

 自民はその理由を説明するとともに、確認書の添付で済ませたいのであれば、具体的な運用方法を示すべきだ。

 政治資金の透明化では、改革の熱意が全く伝わってこない。例えば、政党から党幹部らに渡される政策活動費だ。

 使途を公表しなくてもいいため、選挙対策の裏金として使われているとの疑惑が消えない。国会審議では自民の二階俊博元幹事長が在任中、50億円近くを受け取っていたとして問題視された。

 公明は使途公開の義務化を提起し、立憲民主党など野党は禁止や廃止を打ち出している。にもかかわらず、自民案では、「透明性の在り方」を検討するとしているに過ぎない。

 政治資金パーティーについても、野党は全面禁止や企業・団体によるパーティー券購入禁止を訴えているが、自民案はこちらも検討項目にとどめている。

 自民案では、裏金事件について「一部の派閥およびその所属国会議員」が引き起こしたと強調している。そこからうかがえるのは、政策活動費や政治資金パーティー全体を直ちに規制する必要はないとの認識だ。

 「政治活動の自由」を大義名分にしているが、続発する「政治とカネ」問題にあきれはてている国民には全く通用しない理屈であろう。

 岸田首相は、政治不信払拭に「火の玉となって取り組んでいく」とも述べていた。規正法改正でその決意の真価が問われることになる。