環境と生産性両立する農業に(2024年5月2日『日本経済新聞』-「社説」)

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有機農業は生産性の向上が課題になっている
 
 農林水産省が環境と調和のとれた農業の推進に一段と力を入れ始めた。脱炭素などにつながる農業の実現は国際課題だが、生産性の向上も併せて追求し、食料の安定供給を確保する必要がある。
 農水省は2021年に政策指針「みどりの食料システム戦略」を策定した。農薬や化学肥料を減らしたり、有機農業を広げたりすることを目標に掲げた。
 目標の達成に向けて、環境への負荷を減らす取り組みを補助金の支給条件にする制度を24年度から始めた。補助金を受け取るには「生物多様性への悪影響の防止」「エネルギーの節減」などに努めることを確認するチェックシートの提出が義務づけられている。
 25年度からはシートの内容を実施したかどうか報告を求め、それを確認するための手続きを一部で実施する。27年度には順守しない農家へのペナルティーを導入する措置も視野に入れている。
 環境への負荷を軽くするのは当然だ。家畜の排せつ物や落ち葉など国内で手に入る材料でつくれる有機肥料の積極活用は食料安全保障に資する。化学肥料の大半を輸入に頼る状況はリスクをはらんでおり、有機肥料の利用を後押しすることには意義がある。
 環境との調和は、日本の食料安保の観点から見るとプラス面だけでなくマイナス面もある。
懸念されるのが、生産性の低下だ。農薬や化学肥料を減らすと病害虫が発生したり、収量の低下を招いたりする恐れがある。作業の手間が増え、コストアップにつながる可能性もある。
 それらの対応を個々の生産者に求めるのは難しい。国や自治体、研究機関、農業団体などが連携して、病害虫に強い品種の開発や栽培方法の確立、スマート農業の導入などを力強く推進すべきだ。
 ウクライナ危機で穀物や肥料の国際相場が高騰し、日本の食料事情の危うさが浮き彫りになった。環境と調和する農業への移行は、最優先課題である食料安保と両立させる形で進めてほしい。