巨大IT被害に関する社説・コラム(2024年5月2日)

投資詐欺広告 巨大ITは被害を放置するな(2024年5月2日『読売新聞』-「社説」)


 偽の広告や中傷まがいの口コミ情報が、インターネット上に拡散されている。これ以上、被害が広がらないよう、巨大IT企業は、責任を持って対策を講じるべきである。

 SNS上で、著名な経済アナリストや実業家などになりすまし、投資を呼びかける偽広告の問題が深刻化している。米SNS大手メタが運営するフェイスブックやインスタグラムで、こうした広告が数多く確認された。

 警察庁によると、偽広告を含む「SNS型投資詐欺」の被害は、昨年1年間で2271件、約278億円に上っている。

 4月には、70歳の会社役員の女性が投資の偽広告を見て、著名な経済アナリストらを装った人物に約7億円をだまし取られていたことが判明した。同様の手口で、老後の資産を失った人もいる。

 著名人の信用力を利用した悪質な犯罪である。警察は摘発に全力を尽くさなければならない。

 被害を防止するには、偽広告の配信停止が不可欠だ。しかし、名前や映像を詐欺に使われた著名人が、メタに削除を求めたところ、「広告が多くて、全てには対応できない」と回答されたという。

 あまりにも不誠実な対応だと言わざるを得ない。被害の申し立てがあれば、費用や人員を投じてでも必要な対応をするのが、企業として当然の姿勢ではないか。

 メタなどは広告を配信する際、人の目やAI(人工知能)を使った自動検知技術で内容を審査しているという。被害の訴えがあった広告についても、真偽を判定し直し、削除を進めるべきだ。

 政府も巨大ITに、対策の強化を強く要求してほしい。それでも対応が不十分なら、偽広告の削除を義務づけるといった法規制も検討すべきだろう。

 米グーグルが提供する地図サービス「グーグルマップ」でも問題が起きている。全国の医師らが、自分の病院を非難する口コミをマップ上に書き込まれ、それを放置したなどとして、グーグルに損害賠償を求める訴訟を起こした。

 マップには様々な施設が表示され、誰でも自由に投稿できる。医師らは、口コミ欄に「人間扱いされなかった」「頭がいかれている」などと投稿されたという。

 グーグルは「不正なレビューは削除している」というが、削除の判断基準が不明確で、時間もかかるという批判が出ている。巨大ITが提供するサービスは、多くの国民が利用している。その重みを自覚しなければならない。

 

巨大IT規制 消費者の利益最優先に(2024年5月2日『東京新聞』-「社説」

 

 

 政府が「スマホ特定ソフトウエア競争促進法案」を国会に提出した。今国会中の成立を目指すが、審議にあたり、消費者の利益や利便性を最優先すべきだという競争政策の原則を確認したい。
 法案は、スマホ分野で絶大な支配力を持つ米国のアップル、グーグル両社を念頭に、優越的地位を利用してアプリ開発事業者らの参入や競争を阻害させないことが目的。事業者によるアプリ配信を妨げないなどの順守事項を定め、違反には罰金も科す内容だ。
 日本のスマホ市場はアップルのiPhone(アイフォーン)が7割、グーグルの「アンドロイド」という基本ソフト(OS)搭載モデルが3割を占めるとされる。
 両社は自社OS上で作動するアプリ(応用ソフト)の配信事業も独占している。開発事業者がアプリを配信する際に両社から手数料を徴収される場合があり、手数料はアプリの価格に転嫁される。
 両社は検索などスマホ上のサービス選定でも強い力を持つ。自社利益優先で振る舞えば、消費者のサービス選択の幅が狭まったり、アプリ価格が上昇しかねない。
 このため米国では連邦政府などが、消費者が不利益を被っているとして、両社を提訴している。
 スマホ分野に限らず、通信販売の米アマゾン・コムなど巨大IT企業が市場競争をゆがめているとの批判は強く、規制強化は世界的な潮流でもある。
 日本でも2020年、公正取引委員会公取委)が、アマゾン日本法人に対し、取引先企業に不当に課金しているなどとして独禁法違反の疑いを通知、改善させた。21年には巨大IT企業が不当な取引条件を課すことがないよう「デジタルプラットフォーム取引透明化法」が施行された。
 しかし、問題は後を絶たない。公取委は4月、グーグルが立場を利用してLINEヤフーとの契約を変更、検索関連の技術提供を制限した疑いがあるとして行政処分を科した。
 競争政策は主に企業間に関わる問題だが、巨大IT企業が地位を利用して取引先を不当に扱えば、商品価格が上がったり選択肢が減ったりする。その不利益を被るのは私たち消費者だ。
 巨大IT企業の収益力が強いのは技術革新を積極的に進めてきたためだとしても、利益の源泉が消費者の犠牲であってはならない。