公取委グーグル処分に関する社説・コラム(2024年4月24日)

公取委がグーグル処分 1強のゆがみ是正が急務(2024年4月24日『毎日新聞』-「社説」)
 
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グーグルに対する行政処分を発表する公正取引委員会の担当者=東京都千代田区で22日午後3時過ぎ、山本明彦撮影
 
 いまや国内広告市場の半分をネットが占める。競争をゆがめる行為は迅速に是正すべきだ。
 米グーグルが独占禁止法に反する行為をしていた疑いで、公正取引委員会から行政処分を受けた。競合するLINEヤフーの広告事業を妨害していたという。
 両社は、検索ワードを分析してネット広告を表示する「検索連動型広告」の大手である。自社以外の検索サイトなどにも広告を配信し、国内シェアはグーグルが7~8割を占める。残りはヤフーだ。
 グーグルは2010年からヤフーにシステムを提供しており、技術面では独占状態にある。こうした立場を乱用し、15年から7年間にわたり、ヤフーが他社のスマホサイトに広告を配信できなくする措置を講じていた。
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米グーグルの本社=米西部マウンテンビューで2023年11月18日、大久保渉撮影
 
 独占企業による不当な圧力だ。こうした行為がまかり通れば、広告料の高止まりなどを招き、消費者にしわ寄せが及ぶ。
 ネットビジネスでは利用者が増えるほど利便性も高まり、特定のサービスによる「独り勝ち」が生じやすい。その結果、検索サービスやスマホの基本ソフト(OS)はGAFAと呼ばれる巨大IT企業の独壇場となっている。
 これらのサービスや技術を使って事業を営む企業は多い。不当な契約でも拒めないのが実情だ。
 ヤフーも技術供与などで不利益を被る事態を恐れたとみられる。ただ、早い段階で公取委に通報するなどの選択肢もあったのではないか。寡占の一角を担う大手企業として、消費者の利益を最優先に対応すべきだ。
 独創性に優れた新興企業が新たなサービスや製品を出し、市場を活性化するのが本来の姿だが、巨大ITの支配を突き崩すのは難しい。利用者が使い慣れたサービスから乗り換えるハードルは高く、資金力のあるGAFAはライバルを買収することも可能だ。
 こうした状況下、デジタル寡占に歯止めをかける政策の重要性は高まっている。欧州連合EU)は、禁止行為を定めた法律の本格運用を始めた。日本の公取委も、スマホOS事業者を規制する新法を今国会に提出する方針だ。
 「1強」の弊害は大きい。市場の監視を強め、公正な競争環境を維持する取り組みが急務だ。
 

グーグル処分 市場支配力で競争を阻害した(2024年4月24日『読売新聞』-「社説」)

 巨大IT企業が、不当に競合相手の事業を制限していたという。一企業が市場を支配することの弊害を浮き彫りにしたと言える。公正取引委員会は監視を強めてもらいたい。
 米グーグルが技術を提供しているヤフー(現・LINEヤフー)のデジタル広告配信事業を巡り、グーグルが独占禁止法に違反していた疑いがあるとして、公取委が初の行政処分を出した。

 問題があったのは、インターネットで検索した語句に関連する広告を、スマートフォンなどに表示する「検索連動型広告」だ。

 ヤフーは元々、米ヤフーの検索技術を利用していた。米ヤフーがグーグルとの技術開発競争で劣勢になったため、2010年にグーグルと提携し、検索関連の技術提供を受けるようになった。

 グーグルは検索連動型広告の技術もヤフーに供与したが、15年9月から、スマホ向け広告配信に必要な技術の提供をやめた。ヤフーに広告収入が流れるのを阻止する狙いがあったのではないか。

 グーグルは公取委の調査が入った22年に提供を再開したものの、ヤフーは約7年間も広告配信の一部で事業展開が困難になった。

 優位な立場にあるグーグルが、ヤフーの事業を妨害したとすれば問題は大きい。公正な競争をゆがめる行為であることは明白だ。

 グーグルとヤフーが提携した10年当時も、公取委は聞き取り調査を行った。グーグルから、技術を提供しても競争を維持する意向が示され、提携を認めた経緯がある。その約束が 反故ほご にされたことになり、不誠実極まりない。

 検索連動型広告の国内市場で、グーグルは7~8割のシェア(占有率)を持つ。競合するヤフーが締め出され、グーグルの独り勝ち状態になれば、企業が出す広告の料金がつり上がりかねない。

 高い広告料が商品やサービスの価格に反映されると、消費者にも不利益が及ぶことになる。

 今回の行政処分独禁法の「確約手続き」に基づくものだ。

 独禁法の疑いがあると指摘された事業者が、自主的に改善計画を公取委に出し、認められれば、排除措置や課徴金納付の命令のような厳しい処分を受けなくて済む。公平な競争環境を素早く取り戻す狙いで、18年に始まった。

 グーグルは、ヤフーへの技術提供を制限しないことや、外部の定期監査を行うことなどを計画に明記した。その順守は当然である。その上で、グーグルは社会的責任の重さを再認識すべきだ。