人口減少下の自治体 「消滅」せぬ地域づくりを(2024年5月2日『毎日新聞』-「社説」)

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人口戦略シンポジウムに登壇し、744自治体に消滅可能性があると説明する増田寛也総務相=東京都千代田区で2024年4月24日午後1時34分、奥山はるな撮影
 
 人口減少の波が押し寄せる中で、地域社会をどう維持していくのか。現実を冷静に見つめ、対策を講じなければならない。
 民間の有識者グループ「人口戦略会議」が、全国市区町村の人口の動向を分析した報告書をまとめた。人口減少が進むことで将来、共同体の維持が困難になるおそれがある「消滅可能性自治体」に全体の約4割、744市町村があてはまるとの試算を公表した。
 2020年から50年までの間に、子どもを産む中心世代である20~30代の女性人口が5割以上減ると推計された自治体を指す。
 
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人口戦略会議が示した自治体の人口の特性分類
 
 グループの中心である増田寛也岩手県知事らが10年前に公表した「消滅自治体リスト」の896団体に比べれば減っている。ただし、外国人の増加を見込んでいるためで、コロナ禍を経て出生数減少は加速している。基調に変化は無いとみるべきだろう。
検証欠かせぬ地方創生
 改めて浮かんだのは、人口を巡る地域格差の拡大である。
 秋田県秋田市を除く全市町村が「消滅可能性自治体」となった。北海道、東北、四国はリスト入りした市町村の割合が高かった。
 日本全体としては人口が減る一方で「東京圏」(東京都と神奈川、埼玉、千葉3県)への集中が加速している。経済・社会的な影響はもちろん地域の荒廃、防災などの見地からも放置できない。
 地域や社会を持続させるための手立てが課題になっている。
 まず欠かせないのは、政府の約10年間に及ぶ「地方創生」の取り組みの検証である。地方を活性化させる施策を国が交付金などで支援し、東京圏への人口流出を食い止める狙いだった。
 だが、成果は上がっていない。観光などの活性化策をコンサルタントに丸投げしたようなケースもある。成功事例を普及させようとしたが、自治体ごとに事情は違うため、うまくいかなかった。
 地方から東京圏への人口流出の中心は、若い年代の女性だ。これに歯止めをかけられている自治体には、子育てや住宅の支援などに力を入れているところが目立つ。女性の雇用と子育ての環境を整えていくような戦略性をもっと打ち出すべきだった。
 人口減少時代に自治体行政を守る対策も、後手に回っている。
 「市町村合併をすればいい」との声が聞かれるが、実際にはそれほど単純な問題ではない。「平成の大合併」で1000を超す自治体が減り、それぞれの地域事情から現在の市町村は残っている。役場が遠くなるなどの合併の弊害も軽視できない。
 人口減少を理由に「令和の大合併」を国が進めようとすれば、実態は強制合併になりかねない。賛否を巡る対立で、地方はますます疲弊するだろう。
合併は「解」にならない
 近隣の自治体同士で病院や、公共施設などのサービスを分担したり、都道府県が小規模町村の業務を補完したりするなどの連携を進めることが現実的だ。
 計画的な市街のコンパクト化や、インフラの整理も避けられない。デジタル技術の活用による効率化だけでなく、水道、教育、防災などの機能を維持できる仕組み作りを国は主導すべきだ。
 「消滅自治体」といっても、人や地域が消え去るわけではない。「消滅」という呼称はいたずらに絶望感をあおる懸念がある。
 地方の現場にはさまざまな胎動がある。徳島県神山町は人口5000人に満たないが、NPOの活動や住民参加型の議論を踏まえてIT起業家らを受け入れやすいまちづくりを進めてきた。島根県は今回、12自治体が「消滅」リストから脱却している。理由をつぶさに分析する必要がある。
 移住しなくても、東京などに住む人が他自治体とイベントなどで結びつく「関係人口」という考え方も注目されている。将来的には住民税の一部を振り向けて、地域を支援できるような制度の導入も検討に値するのではないか。
 地域社会が持続するためには、住民が「住み続けたい」と思う魅力を再発見することが出発点だ。外部の人を引きつける可能性も広がる。産業、子育て、観光、都市計画などの要素を総合した独自のビジョンが必要になる。
 地域のリーダーや、若者らを巻き込んだうねりを創り出していく。それが、首長や地方議会の果たすべき役割であろう。主役はもちろん、住民である。