東京都豊島区は24日に民間組織「人口戦略会議」が公表した報告書で、「ブラックホール型自治体」に定義付けられた。10年前、東京23区の中で唯一、「消滅可能性都市」の指摘を受けた同区は、危機感から対策を次々に講じて、
この10年で人口は2万人余り増加。ただ、そのうちの多くは外国人が占め、出生率も23区中最下位。他地域からの人口流入に頼る状況が続いており、行政は頭を抱える。
■危機感「災害と同じ」
「(区がなくなるということは)災害と同じだ」。平成26年5月、同区は民間組織「日本創成会議」によって、「消滅可能性都市」に該当すると指摘された。その際、当時の高野之夫区長はこう漏らし、動揺を隠そうとしなかった。 調査は20~39歳の女性人口に着目。平成22年からの30年間でこの世代の女性が50%以上減少すると推計される自治体を消滅可能性都市として挙げた。 当時の〝消滅〟ショックに同区の動きは早かった。指摘の8日後、高野氏を本部長とする「消滅可能性都市緊急対策本部」が設置され、「子供と女性にやさしいまちづくり」などの対策が柱に掲げられた。同年7月には若い女性から広く意見を聴こうと「としま100人女子会」を開催。
翌8月には、20~34歳の女性を指す「F1層」を冠した「としまF1会議」を発足させ、子育てや女性の起業支援など、11の事業に予算を投入した。 区政策経営部企画課の沢田健司課長は「若い女性から『公共トイレが怖い』といった意見があり、平成29年から3年間で85カ所のトイレを改修した。また、まちの価値を高めるための起爆剤として、池袋駅周辺の4つの公園のリニューアル、グランドオープンを進めた」とこの10年を振り返る。 できることならなんでもする-。
そうした姿勢で対策を講じ、平成30年には40年ぶりに人口29万人を突破した。20~39歳の女性人口も着実に増加したとして、同区はこの年に消滅可能性都市からの脱却を宣言した。
■ブラックホール型
たしかに、消滅可能性都市の指摘があった平成26年から今年までに、同区内の人口はおよそ2万人増えた。ただ、沢田氏は「うち日本人の数は約7千人」とも付け加える。つまり、増加分の3人に2人は外国人。さらに女性1人が一生に出産する子供の数を示した「合計特殊出生率」は0・89と東京23区で最も低い。
10年間であらゆる手を尽くしながら、今回の調査報告で、人口流入が多いものの出生率が低い「ブラックホール型自治体」に位置付けられた同区。都市の持続可能性を考えれば、人口の自然増を目指すさらなる対策が必要になるだろう。
昨年、亡くなった高野氏に代わり、区政のかじ取りを担う高際みゆき区長は午後、会見に応じ「(消滅可能性都市から)脱却でき、ホッとしている」と切り出した。一方で、「ブラックホール」という表現について「ずいぶんな言葉」と苦笑交じりに述べた。
今回、ブラックホール型自治体と指摘を受けたのは、東京都内の17を含め全国25自治体。「豊島区だけではないので」。去り際に漏れた高際氏の言葉からは、少子高齢化に有効策を打てていない日本の現状が浮き彫りとなっている。(宇都木渉)
744自治体が「消滅可能性」、出産世代の女性が大幅減少…25自治体は「ブラックホール型」(2024年4月24日)
民間有識者らで作る「人口戦略会議」(議長=三村明夫・日本製鉄名誉会長)は24日、全国の4割以上にあたる744自治体が、若年女性人口の大幅な減少に伴って将来的に「消滅可能性がある」とする報告書を公表した。「少子化の基調は全く変わっていない」として、各地域の実情に応じた対策を求めた。
報告書は、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が昨年12月に発表した地域別将来推計人口を基に、出産の中心世代である20~39歳の女性人口について、2020~50年の減少率を推計。減少率が50%以上の自治体を「最終的には消滅する可能性が高い」とした。東北地方が165自治体と最も多く、北海道117、中部109が続いた。
特に深刻とされたのは23自治体で、千葉県銚子市の担当者は「非常に厳しい分析だ。できる対策を続けたい」と話した。宮城県川崎町の小山修作町長は「若い女性が住みたいと思えるように真剣に考えなければならない」と語った。
また、報告書は、出生率が低いにもかかわらず他地域からの人口流入が多い25自治体を「ブラックホール型」と分類した。東京都の16区や千葉県浦安市などが該当し、21自治体が関東だった。若年女性の減少率が20%未満の「自立持続可能性自治体」は、茨城県つくばみらい市など65自治体で全体の約4%だった。
【関連記事】