自治体4割消滅も 政府は長期人口目標示せ 都道府県の再編もあり得る(2024年4月25日『産経新聞』-「主張」)

「消滅可能性自治体」について公表された民間組織「人口戦略会議」のシンポジウム=東京都千代田区

 有識者らでつくる民間の「人口戦略会議」が、2020(令和2)年から50(同32)年の30年間で、全国の市区町村の40%を超える744自治体が消滅する可能性がある、と分析した報告書をまとめた。

 子供を産む中心の年代となる20~39歳の女性人口が50%以上減る市区町村を「消滅可能性自治体」と定義した。

 10年前の平成26年5月にも別の民間組織「日本創成会議」がほぼ同じ手法で試算し、2010(平成22)年から2040(令和22)年の30年間に、全体の約半数を占める896市区町村が消滅する可能性があると指摘していた。

少子化危機直視したい

 単純に比較すると、該当する自治体は150程度減少したことになるが、戦略会議は外国人の増加が要因としており、「少子化基調が全く変わっていない。楽観視できる状況にはない」と警鐘を鳴らした。

 総務省によると、令和5年10月1日時点の日本の総人口は推計で1億2435万人となり、13年連続で減少した。

 政府は一人でも多くの子供を産んでもらうことで、人口の落ち込みを緩やかにし、消滅可能性自治体を減らすことにつなげていかねばならない。そのためにまず政府は、将来維持したい日本の人口規模を示す必要がある。

 安倍晋三政権時に、50年後、1億人程度の人口を維持するという目標を経済財政運営の指針「骨太の方針」に盛り込んだことがあった。だがその後、骨太の方針から目標は消え、現在政府は目指すべき人口規模を示していない。

 これでは、本腰を入れた少子化対策ができるわけがない。

 戦略会議は今年1月、2100(令和82)年までに、総人口を8000万人の水準で安定させることを目指す「人口ビジョン2100」を発表した。これは現在の総人口の3分の2程度の規模にあたる。

 人口ビジョンは、東京一極集中を是正し「多極集住型」の国土づくりを進めることや、内閣に司令塔となる「人口戦略推進本部」の設置なども掲げた。

 政府の少子化対策である「こども未来戦略」は、2050年代に1億人を割り込むことを見通し、若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、状況を反転させられるかどうかの分岐点であるとの認識を示している。だが、予測にとどまっており、これは人口目標とはいえない。

 10年前と今回の両方の分析を中心となって行った日本郵政社長の増田寛也総務相は24日、「(10年前から)危機感が広がらなかった」と語った。

 これまでの取り組みには反省すべき点がある。10年前に消滅可能性のある自治体を公表したことで、当時の安倍政権が「地方創生」に取り組むきっかけになった。ただ、各自治体は移住促進策を進め、近隣自治体との間で人の奪い合いを展開するにとどまった。

過去の取り組み反省を

 子育てしやすい環境を整えるのは大事だが、生まれる子供を増やすことの取り組みが日本全体で足りなかったということである。

 戦略会議は報告書で、100年後も若年女性が5割近く残る「自立持続可能性自治体」、人口の増加分を他の地域からの流入に依存し、出生率は非常に低い「ブラックホール自治体」などの数の試算も提示した。ブラックホール自治体は流入が続いても、それに安住してはいけない。出生率の向上につなげていくことが欠かせない。

 国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口によると、2050(令和32)年の人口は、東京都を除くすべての道府県が20(同2)年を下回り、秋田県など11県では3割以上減少すると予測している。

 過疎化が進み、税収減で地方財政が悪化すれば、行政サービスを十分提供できなくなっていく。道路や水道などのインフラの老朽化対策にかかる費用は重くのしかかろう。地元のスーパーなどが相次いで撤退し、「買い物難民」が急増する可能性もある。公共交通機関がより衰退していくことも懸念される。

 人口減でも豊かさが実感できる社会を実現するには、市区町村にとどまらず都道府県も含めた再編は避けられまい。それくらい深刻な事態であることを、政府も自治体も国民も銘記せねばならない。