自由貿易を推進する世界貿易機関(WTO)の機能不全が、改めて浮き彫りになった。自由貿易体制を守るため、関係国は事態の打開に向け粘り強く協議してほしい。
WTOは、2月26日から閣僚会議を開いた。当初は29日までだった日程を3月2日まで延長したが、貿易の紛争処理制度の改革など、主要な議題で目立った成果が得られないまま閉幕した。
WTOには、160以上の国・地域が加盟している。2年に1度、閣僚会議を開き、貿易ルールなどについて話し合っている。
ウクライナ危機を機に農産物の輸出制限が広がり、食料危機を招いた。コロナ禍では医療物資などの輸出を規制する国が増えた。WTOが果たすべき役割はなお大きく、機能不全は放置できない。
最も深刻なのは、紛争処理制度がほぼ機能していないことだ。
WTOには、紛争が2国間交渉で折り合えない場合、WTOルールの下で解決する裁判のような制度がある。2審制で、まず1審の紛争処理小委員会(パネル)が審理し、その判断が不服なら最終審の上級委員会に上訴できる。
しかし、米国が上級委の委員選任を拒否しているため、上級委の審理は2019年12月から止まったままとなっている。
中国の不公正な貿易慣行にWTOが適切に対処できていないことや、中国の主張を認めた過去の上級委の決定に、米国が強い不満を持つためとみられている。
今回の閣僚会議で、日本と欧州は、上級委の機能を早期に回復させることを訴えたが、米国は反対姿勢を変えなかったという。
上級委の審理が停止していることを利用し、1審で敗訴した国が、上級委へ上訴することによって意図的に判断を棚上げ状態にしようとする例が相次いでいる。
紛争処理が滞れば、自国第一の保護主義が広がりかねない。米国は委員選任を拒むだけでなく、改善への具体案を示すべきだ。
一方、01年にWTOに加盟した中国に対しては、国有企業への過剰な補助金や知的財産権の侵害など、不公正な貿易慣行への批判が根強い。WTO改革を進めるには、中国側の改善努力も不可欠だ。
経済大国である米中両国は、自国の利益ばかりを優先するのではなく、世界全体の貿易の発展を目指す行動をとってもらいたい。
改革の必要性で認識が一致している日欧は、米中のほか新興・途上国の声にも耳を傾けながら、意見調整に努めることが重要だ。