NATO拡大 国際秩序守る団結が必要だ(2024年3月6日『河北新報』-「社説」)

 北大西洋条約機構NATO)の加盟国が、バルト海のほぼ全域を取り囲む。結束の強化は、ロシアの脅威に対する抑止力となろう。

 スウェーデンが米欧の軍事同盟NATOに加わることが決まった。19世紀初頭のナポレオン戦争以降、200年以上続いてきた非同盟・中立という国是の転換である。

 昨年4月のフィンランドに続く加盟で、NATO参加国は32カ国となる。ロシアに対抗する欧州の集団安全保障体制は、新たな段階に入った。

 新加盟の背景には、2年前のロシアによるウクライナ侵攻開始がある。バルト3国(エストニアラトビアリトアニア)と同様、北欧はロシアに次の標的にされるとの危機感が強い。

 スウェーデンは冷戦後の1990年前半から徐々にNATOとの関係強化を図り、94年には欧州中立国や旧ソ連諸国とNATOの協力枠組み「平和のためのパートナーシップ」を締結した。

 ロシアの脅威の高まりを受け、2018年に徴兵制も復活させている。欧州では有数の軍事大国として知られ、バルト海の安全保障を巡っては豊富な専門知識を持ち、他の加盟国の期待は大きい。

 一方、ロシアのプーチン大統領は当初、ウクライナを含むNATOの加盟国拡大はロシアの脅威となり、容認できないと主張していた。侵攻に及んだ結果、NATOの拡大を招いたことになる。ロシアにとって、皮肉な失策でしかない。

 プーチン氏は先月29日、年次報告演説でウクライナ侵攻を続ける考えを示した。その中でロシアの戦略核兵器は完全な戦闘準備態勢にあると強調し、欧米をけん制した。フィンランドスウェーデンNATO加盟に関連し、国境付近での兵力強化の必要性にも触れた。核兵器による威嚇を繰り返す為政者を断じて許してはならない。

 さらに気がかりなのが、11月の米大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領の存在だ。最近の演説で、大統領在任中、軍事費をきちんと負担しなければロシアに攻撃されても米国は守らず「むしろ好きに振る舞うようロシアをけしかけてやる」と、NATOのある加盟国首脳に伝えたと明らかにした。

 北大西洋条約第5条は、加盟国への攻撃をNATO全体の攻撃とみなす集団防衛を定めている。同盟は米国が主導してきたにもかかわらず、国際秩序をないがしろにし、加盟国を脅すような暴論は到底認められない。米国と欧州が対立すれば、ロシアを利するだけだ。

 NATOは今後、ロシアと国境を接する加盟国に部隊などを配備する構えだ。偶発的な武力衝突が起きる可能性が懸念される。全面的な対立にエスカレートさせないよう、加盟国は大同団結を図る必要がある。