世界が混迷を深める中、どのような役割を果たすことができるのか。創設75年を迎えた北大西洋条約機構(NATO)が正念場に立っている。
冷戦初期の1949年、ソ連の脅威に対抗するため、米国や英国、フランスなど12カ国が集まって誕生した軍事同盟である。加盟国が武力攻撃を受けた場合、全体への攻撃とみなす。
旧東側陣営の軍事同盟だったワルシャワ条約機構は冷戦終結後に消滅したが、NATOはバルト3国やポーランドなど東欧諸国を取り込んで拡大を続けた。ロシアのウクライナ侵攻を機にフィンランドとスウェーデンが加盟して、32カ国による「世界史上最強の軍事同盟」(バイデン米大統領)となった。
地理的範囲だけでなく、活動の領域も広げてきた。ボスニアやコソボの民族紛争への介入をはじめ、米同時多発テロを受けたアフガニスタンでの「テロとの戦い」など域外の危機管理に軸足を移した。最近ではサイバーや宇宙にも力を入れている。
米欧の枠組みを超え、日韓などアジア諸国との連携を強化する取り組みも始めた。背景にあるのは、威圧的な行動を強める中国に対する警戒心だ。
しかし拡大の結果、NATOはロシアとの緩衝地帯を失い、国境を接して対峙(たいじ)する構図に置かれている。ウクライナを支援しつつ、ロシアとの直接対決をいかに回避するか、難しいかじ取りを迫られる状況だ。
米欧は冷戦後、安全保障面でロシアと安定的な関係を構築できなかった。その反省を踏まえ、ウクライナ戦争の収束にどう道筋をつけるかが問われている。
結束をいかに維持するかも課題だ。脱退を示唆するトランプ前米大統領が11月の大統領選で再選されれば、米国の関与が低下する可能性がある。欧州も権威主義的な国を抱え、足並みをそろえることが難しくなっている。
軍事的な抑止力の強化で大国間の対立が深まれば、かえって地域の安定が損なわれかねない。NATOには、ロシアの侵攻によって揺らいだ国際秩序を立て直し、世界の安定に寄与することが求められる。