会社のなかで中高年女性社員はどう見られているのか。共同研究「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」調査報告書をまとめた、定年後研究所所長の池口武志さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】
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――企業も多様性を意識するようになっています。
池口氏 これまでは多様性というと女性でしたが、中高年も含めて考えるようになっています。「女性」と「中高年」が重なってきています。
――総合職、一般職に分けるやり方が、中高年女性の今の処遇にも影響しています。
◆変わってきています。転勤型と自宅通勤型で分けるところはまだ多いのですが、それもやめるようになっています。
「男性ならば会社の都合で転勤命令が出たら、全国どこにでも従うのは当たり前」という古い価値観は急速に消え始めています。「男性は全国転勤、文句を言うな。女性は自宅通勤」は、成り立たなくなっています。
大義名分というより、働く側の意識が変わっています。そうしなければ若い人が会社を辞めてしまいます。
◇確実に変わっている
――対応を迫られているということですか。
◆たとえばお客さんの半分は女性なのに経営会議は似たような格好をした男性ばかりでは、判断を誤ります。 ただし、今回の調査で企業担当者に話を聞きましたが、多くはキャリア担当は男性、ダイバーシティー担当は女性でした。過渡期なのでしょう。いずれはダイバーシティー担当も男性になる時代も来るのでしょうが、現状はこうです。
――中高年女性が会社に占める割合は増えていきます。
◆私は正直、今の中高年女性はふるいにかけられた後の人で、特に50代の管理職ではない女性に管理職登用を呼びかけても反応してくれないのではないか、と思い込んでいました。
けれども今回の調査では、2割前後は会社がサポートしてくれるなら手を挙げたい、という人がいました。60歳を過ぎて再雇用された女性から「全国転勤でチャレンジしたい」という声が出た例も聞きました。
「中高年女性には成長余力がない、現状維持志向だ」というのは先入観でした。もちろん、全員ではありませんが、管理職の球が飛んできたら打ち返せる中高年女性はいます。 ◇企業が見落としている
――現在の企業に中高年女性を意識した施策があるわけではありません。
◆企業が見落としている部分ではないでしょうか。もったいないと思います。目先の管理職比率を求められているので、30代で総合職の人に場数を踏ませて達成しようとする企業は多いのです。
会社として目標値を宣言して努力をすることは必要です。けれども、旗を振っているだけでは、喉元過ぎれば、になってしまうのではないでしょうか。
――中高年の女性に活躍してもらうにはどうしたらよいでしょう。
◆適性がある人は管理職になればよいのですが、そうではない人も、適性をうまく事業と結びつければよいのです。たとえば、短期の営業成績では評価されなくても、長期の関係を作るなどです。
男性だから、女性だから、中高年だから、と言っている余裕はなくなっています。日本の会社は人物本位と言いつつ、何年入社という年功序列でやってきました。「女性活躍」がいい風穴をあけつつあると思います。
◇若手だけではなく
――企業も対応が問われますね。
◆よく「働かないおじさん」などと言われます。自社に眠っている人的資源、中高年社員というと、男性の総合職モデルに焦点が当たりがちです。 中高年社員をいかす取り組み自体も道半ばですが、まして中高年女性になると、その価値に気がついていない企業は多いのです。
――中高年女性には意欲があります。
◆できるだけ長く働いて自分の老後の生活資金を準備したいという声も多いのです。会社はそのことにどう応えるのか。もっと一人一人を見極めてほしいと思います。
人材育成というと、若手におカネがいきがちなのは仕方がないことです。ただもう少しプラスして、中高年社員、中高年女性にも投資をしてはどうでしょうか。