3月8日は国際女性デーです。
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従業員300人超の企業は2022年7月から、男女の賃金格差の開示が義務付けられた。厚生労働省が今年1月に初めてまとめた集計では、女性の平均賃金は男性の7割弱にとどまる。専門家は、職種や年齢など「説明できる格差」以上に、偏見や慣習など「説明できない格差」が影響していると分析する。男女の賃金格差の解消には「説明できない格差」に踏み込んだ対応が求められる。(原田晋也、坂田奈央)
◆「数字だけ出しても何も分からない」
「男性に対して女性の賃金が何割低かった、という数字だけ出しても何もわからないと思った」。公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の塩村賢史ESG・スチュワードシップ推進部長は話す。
GPIFは昨年9月、22年度の男女賃金差と、その差を生んだ要因の分析結果を公表した。男性の賃金に対する女性の賃金の割合は70.6%。男女差の29.4%に関して、「年齢」「勤続年数」「学歴」「労働時間」など属性をそろえた分析を行い、(1)女性の勤続年数が男性より短い(2)給与水準が高い専門職に女性が少ない―などの課題を捉えた。同時に、主な要因以外による「説明できない格差」も浮かび上がったという。
◆女性を低く評価する無意識の偏見
明治大の原ひろみ教授(労働経済学)は、男女の賃金格差における「説明できない格差」に着目し、分析を行っている。原氏の推計によると、21年のフルタイム雇用者の中央値での男女賃金格差は27.3%。そのうち半分以上にあたる14.8%が「説明できない格差」だった。
原氏はこの14.8%について「おおむね差別を反映した格差だと考えられる」と話す。具体的には、社会の意識(ジェンダー規範)や、生産性に関して女性を低く評価してしまう無意識の偏見などが想定される。いずれも、ジェンダー平等を巡り、企業だけでなく社会が抱える課題だ。
◆平均値だけの公表では、言い訳が通用してしまう
政府が企業に開示を求める賃金格差は、男女それぞれの賃金の総額を人数で割る「平均」の数字で、調査対象の属性などは考慮されていない。格差の要因を説明することはできない。
早稲田大の大湾秀雄教授(人事経済学)は男女の賃金格差に関し「無意識に男性的な職と女性的な職を分けてしまい、その後のスキル評価や仕事の配分にも影響を与え、成長格差を生み出す」と説明。「平均」だけを開示する現状について「公表自体は評価するが、『男性が高年齢層に、女性が低年齢層に多い』といった言い訳が通用してしまう。差が生まれるメカニズムを企業が理解し、多様な配慮をしていかなければ、格差は解消しない」と話す。
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日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でフルタイム雇用者の男女の賃金差が4番目に大きい。明治大の原ひろみ教授は、勤続年数や学歴といった属性の男女差に起因しない「説明できない格差」の方にも目を向けるべきだと指摘。学校教育による影響にも着目する。
◆労働力人口減少の中、さらなる格差縮小が必要だ
―男女間の賃金格差はなぜ問題なのか。
―賃金格差はなぜ生じるのか。
「『説明できる格差』と『説明できない格差』がある。スキルや知識などの人的資本が変わらない男女の間でも生じる格差が『説明できない格差』で、残りは人的資本の差で説明できる。日本の労働市場では今でも人的資本は男性の方が女性より相対的に高いため、『説明できる格差』が発生しているが、説明できるからといって、見過ごしてよいわけではない」
◆技術・家庭の別学など、学校教育も影響している
―「説明できない格差」の要因は何か。
「背後にはジェンダー規範がある。国際的な意識調査によると、男性が外で仕事をして女性が家で家事をすべきだという伝統的な性別役割分担意識が日本は強い。これは『女性は会社での仕事に向いていない』というアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)につながる。このような意識を弱めていく必要がある。例えば、最近の研究から、中学校の『技術・家庭』の男女別学は、性別によって社会での役割が違うと教えていた可能性が示されている」
―学校教育も影響していたと。
「1989年度まで男女別々に受けていた中学校の技術・家庭の授業が、90年度から男女共修になった。男女共修化以降の世代では、成人した男性(夫)の週末の家事や育児の時間が長くなり、女性(妻)は正社員で働く人の割合が増えたことが、データ分析で明らかになった。働いている女性に限れば、年収が約21万円増えたことも示された」
◆企業の対策だけでなく、政策のサポートがなければ
―企業の取り組みだけでは格差解消は難しいか。
「企業が男女の賃金格差の開示を通じて行動を変えるのは重要な1つのルートだ。ただ、変わるのが企業だけでは不十分。例えば(賃金格差を生む)勤続年数の違いは、家庭内の役割分担の違いから来ている部分が大きいだろう。まだまだ女性が子どもや高齢者など家族のケアを担うことが多い。そこに政策的なサポートの余地があり、政府がやれることがまだあるのではないか」
原ひろみ(はら・ひろみ) 東京大大学院経済学研究科修了、同大博士(経済学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員、明治大准教授などを経て2023年から現職。専門は労働経済学、実証ミクロ経済学。
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