日銀はの政策運営に関する社説・コラム(2024年4月27日)

日銀は円安も注視し的確な政策運営探れ(2024年4月27日『日本経済新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
金融政策決定会合後、記者会見する日銀の植田総裁(26日、日銀本店)
 
 歯止めのきかない円安にどう向き合うのか。3月にマイナス金利政策をはじめ異次元の金融緩和策の解除を決めたばかりの日銀が難題に直面している。利上げの機を探りつつ、円安が経済や物価に与える影響も注視してほしい。
26日開いた金融政策決定会合では、短期の市場金利を0〜0.1%程度とする現行政策の維持を決めた。賃金・物価情勢を見定めたいという判断は妥当だろう。
 日銀は賃金上昇を伴う2%の物価上昇の定着を目標に掲げる。今回公表した2026年度までの新たな経済・物価シナリオでは「見通し期間後半には目標とおおむね整合的な水準で推移する」とうたい、目標達成に自信を示した。
 日銀は一時的な要因を除いた「物価の実力」である基調的な物価上昇率はまだ2%を下回るとみる。植田和男総裁は記者会見で「見通しに沿って2%に向けて上昇していけば、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と明言した。
 24年度の物価上昇率は前回予想から0.4ポイント高い2.8%を見込んだ。当面は過去の輸入インフレの影響もあって2%超の上振れが続くが、その後は基調として2%に収束していく姿を描いた。
 植田氏は円安の影響を巡り、足元の物価を押し上げていると認めたうえで、物価の基調には「今のところ大きな影響を与えているということではない」と指摘した。市場ではこうした発言を受けて円安が加速する場面があった。
 最近の円安・ドル高は根強いインフレ圧力で米国の利下げ観測が後退している要素が大きい。日銀が円安阻止を目的に利上げを急ぐのは本末転倒だ。急激な金利上昇が景気の下振れを招きかねない。
 一方で日銀は円安による物価高が賃上げに波及すれば、物価の基調を押し上げる可能性があるとみる。こうした点を含め、円安が経済や物価に与える影響を丹念に分析し、説明を尽くしてほしい。
 日本経済に適切な政策金利の水準や、膨らんだ国債保有をどう減らしていくかを探る将来の政策の方向性を示す努力も、為替相場の安定につながるはずだ。
 財務省は相場の急変に備え、円買い・ドル売りの為替介入に動く構えを示す。急変動を抑える努力は必要だが、時間稼ぎにすぎない。為替の安定に向けた抜本策は、あくまで輸出産業の再興をはじめとする日本経済の体質改善だ。
 
日銀の金融政策 円安への対応手ぬるい(2024年4月27日『東京新聞』-「社説」)
 
 日銀は25、26両日開いた金融政策決定会合政策金利の維持を決めた。金融緩和基調は当面続き、過度の円安は事実上放置された形だ。円安による物価高で家計は深刻な痛手を受けている。自国通貨の価値下落に対し、日銀の対応は手ぬるいのではないか。
 会合の結果を受け、円相場は一時、1990年5月以来の1ドル=156円台まで下落した。
 日銀の植田和男総裁は決定会合後の会見で「当面、緩和的な金融環境が継続する」と述べた。一方、米連邦準備制度理事会FRB)は金融緩和を見送る姿勢を明確にしており、日米の金利差が一段と開き、円安がさらに加速する可能性は高いだろう。
 日銀は決定会合に合わせ2024年度の物価見通しを従来の2・4%から2・8%に引き上げた。食品の値上げに加え、5月で補助金が打ち切られる電気・ガス代も負担増が避けられず、見通しの引き上げは当然だ。
 ただ物価上昇を予測しながら、それに拍車をかける円安を容認する姿勢は理解に苦しむ。
 円安に対しては鈴木俊一財務相がけん制発言を繰り返しているものの、金融市場の反応は鈍い。もはや「口先介入」だけでは、効果が見込めないのは明らかだ。
 過度の円安を抑制するには、政府は早急に円買い介入に踏み切らねばなるまい。日銀も6月の次回決定会合では金融引き締めをためらわず、政府と協調して円安を抑え込む姿勢を鮮明にすべきだ。
 13年以降、アベノミクスの「第1の矢」であった大規模な金融緩和は長期にわたる円安傾向をもたらした。この間、円安の追い風を受けて、多くの大企業が利潤を上げる一方、新たな事業創造に向けた投資や工夫を怠り、国際的な競争力は失われた。
 このため日銀内に、金融を急速に引き締めれば、脆弱(ぜいじゃく)な国内企業に打撃を与え、景気の足を引っ張りかねないとする懸念があることは理解できなくもない。
 ただ24年3月期決算でも最高益となる大企業が相次ぐ見通しだ。低金利がもたらす「ぬるま湯」に浸る大企業のみが潤い、家計や中小企業が犠牲となる構図はこれ以上放置できない。
 植田総裁には、日銀本来の使命である物価の安定のために、アベノミクスからの本格的な脱出を早急に図るよう強く求めたい。