マイナス金利解除に関する社説・コラム(2024年3月22日)

金融政策正常化へ 「異次元」脱却、再生の契機に(2024年3月22日『河北新報』-「社説」) 


 経済に力強さを取り戻し、安定軌道に乗せていく契機となる政策転換としなくてはならない。

 急速に進む物価高で国民の生活実感が上向いているとは言い難い。長期の緩和に慣れきった政府や企業は、引き締めに耐え得る経済構造の構築を急ぐ必要がある。

 日銀がマイナス金利政策を柱とする大規模緩和の解除を決めた。政策金利の引き上げは2007年以来17年ぶり。長短金利操作の撤廃と上場投資信託ETF)などの新規購入の終了も同時に決定し、金融政策は正常化に向けた一歩を踏み出した。

 マイナス金利政策の解除後は、短期金利の誘導目標を0~0・1%へ引き上げる。1%を「めど」とした長期金利の上限も撤廃する。

 基調にあるのは、賃金と物価がそろって上がる好循環が見通せる環境になったとの判断だ。

 消費者物価指数(生鮮食品を除く)は1月まで22カ月続けて目標である2%以上で推移しており、連合の中間集計では今春闘の平均賃上げ率も5・28%と33年ぶりの高水準となっている。

 ただ、今後本格化する中小企業の春闘では人手不足を背景に賃上げの広がりが期待されるものの、順調に価格転嫁が進展するかどうかを含め、なお不透明感が拭えない。

 植田和男総裁は「当面、緩和的な金融環境が継続する」と指摘し、今回の措置が長期金利の急上昇を招いて景気を冷やさぬよう、長期国債を制限なく買い入れて金利を抑制する「指し値オペ」の枠組みは存続させるとした。

 金利の安定と景気のバランスに配慮した妥当な対応策と言っていいだろう。

 2013年から続いた大規模緩和は、デフレ脱却を狙ったアベノミクス「3本の矢」の一つ。2年で2%の物価上昇を目標に未曽有のペースで国債を買い上げる緊急避難的な対応だったが、目標は達せられず、マイナス金利や長短金利操作へと政策手段を広げていった。

 「異次元」のサプライズ効果もあって当初は株高などで景気浮揚を演出したものの、近年は市場機能や金利体系のゆがみといった副作用が目立ち始めた一方、円安の加速が輸入物価の上昇を招き、国民生活を圧迫している。

 米国のインフレは各種指標でも市場予想を上回る強さが続いており、当面、円安と物価高に歯止めがかかる気配はない。

 大規模緩和の教訓は金融政策だけで経済を再生させるのは困難である一方、その影響は想像を超えて広範かつ長期にわたるという事実だ。

 ゼロに近い金利で政府が国債を大量発行してきた財政規律の緩みは最も深刻な影響の一つだ。財政民主主義を立て直す上でも「金利のある世界」を見据えた意識の転換を国民的な課題とすべきだろう。

 

マイナス金利解除(2024年3月22日『しんぶん赤旗』-「主張」)

 

ゆがんだ金融政策正してこそ
 日銀が19日の金融政策決定会合で、「異次元の金融緩和」の一環として実施してきたマイナス金利の解除を決めました。長期金利を0%程度に抑制する政策もやめ、株式上場投資信託ETF)や不動産投資信託(J―REIT)の新規買い入れを終了しました。

 大規模な金融緩和によって2%の物価上昇を実現すれば、賃金が上がり、経済の好循環が生まれるとの触れ込みで、2013年に安倍晋三政権下で始まった政策でしたが、破綻に陥っていました。財政と金融にもたらしたゆがみはあまりに大きく、異常な政策全体を正すことが迫られています。

物価押し上げ格差拡大
 異次元緩和を開始した際、当時の黒田東彦日銀総裁は「2年程度で2%の物価目標を達成する」と豪語しました。日銀が金融市場で大量の国債を買い入れ、膨大なマネーを供給する政策でした。しかし景気は上向かず、16年にマイナス金利政策が追加されました。

 民間金融機関が日銀に預けている当座預金の一部に「マイナス0・1%」の金利をつけ、逆に預金からお金を徴収する政策でした。金利を極端に低く抑え込むとともに、民間銀行が日銀当座預金を増やせば、損が出るようにし、貸し出しの増加につなげる狙いでした。それも効果はなく、金融政策は手詰まり状態でした。

 1990年代から続く経済の長期停滞の原因は、賃金抑制や社会保障の削減によって国民が疲弊していたことにあります。安倍政権による2度の消費税増税はさらに消費を冷え込ませました。暮らしを応援し内需の低迷を克服する政策が必要なのに、金融頼みで大企業・富裕層の利益を増やす政策を行ったところに根本的な間違いがあります。

 異次元緩和は、円安を進め、輸入物価の上昇を通じて物価全体を押し上げました。実質賃金は22カ月連続でマイナスです。

 その一方、円安による海外マネーの流入や、ETFの大量購入は株価を押し上げ、大企業・富裕層に多大な恩恵をもたらしました。物価高に苦しむ国民との格差は広がる一方です。

 異次元緩和は日本経済の今後を危うくする重大なひずみをもたらしました。国の長期債務残高は、日銀の国債買い入れに支えられて1000兆円を超え、GDP(国内総生産)の約1・8倍です。今後、金利が上昇すれば、国の利払いが膨らみ、社会保障などの予算を圧迫します。

 日銀が保有する長期国債は595兆円にのぼり、発行残高の半分以上を占めます。物価の安定を使命とする日銀が政府の借金を大量に引き受けることは本来、財政法で禁じられています。

正常化へ政治の転換を
 政府も日銀も、金融頼みがもたらした弊害に何の反省も示していません。植田和男日銀総裁は「当面、緩和的な金融環境が継続する」として国債の大量買い入れを今後も続けることを表明しました。岸田文雄首相は、異次元緩和を決定づけた、13年の政府・日銀共同声明を見直さないと述べました。

 これでは「失われた30年」といわれる経済の長期停滞を打開することができません。経済政策を抜本的に転換し、金融政策を正常化するために、自民党政治を一刻も早く終わらせることが必要です。