ところが、外国為替市場で円は買われるどころか売られるばかりで、4月11日には一時1ドル=153円台まで下落しました。34年ぶりの円安水準です。日銀が苦心の末に踏み切った利上げは、完全に無視された格好です。
日銀の植田和男総裁は9日の参院財政金融委員会で「基調的な物価の上昇率はまだ2%を下回っていて緩和的な金融状態を維持することが大切だ」「2%に上がっていけば、金融緩和を少し弱める判断も可能だ」と述べました。
歯切れが悪い発言ですが、原材料価格の高騰など一時的要因を除いて2%付近まで上昇すれば追加利上げもあり得ることを示したとみるのが妥当でしょう。
◆円安、物価高の副作用
異次元緩和には株価上昇や失業率低下、大企業の業績向上など効果の一方、副作用もありました。深刻だったのは急激な物価上昇に対応しきれなかったことです。
ロシアのウクライナ侵攻を背景に原材料価格が高騰し、インフレの波は日本にも押し寄せました。米欧の主要国は軒並み大幅な利上げで物価高騰を抑え込もうとしました。各国の中央銀行は金融を引き締めても自国の景気は耐えられると判断したのです。
しかし、日本では急激な利上げで景気が一気に冷え込む恐れがあり、低金利政策を続けました。その結果、日米の金利差が一気に開いて過度な円安が始まり、物価高騰への対応は、政府の給付金などその場しのぎの政策に頼らざるを得なかったのです。
円安が物価高騰に拍車をかけ、日銀もついに利上げに踏み切りましたが、米欧と比べて内容は中途半端でした。大規模な金融緩和からの脱出口にようやく立ったものの、そこから踏み出すのに躊躇(ちゅうちょ)しているというのが実態です。
投資家たちは日銀が追加利上げをできないと見透かし、円売りドル買いを続けているのです。
懸念されるのは、このまま円安が抑えられない場合、輸入物価の高騰に伴って原材料価格がさらに上昇し、ただでさえ値上がりしている食品など日用品の価格に波及することです。
新陳代謝が起きなかった日本企業が、国際的な競争力を失ったことはいうまでもありません。
民も官も、アベノミクスという「ぬるま湯」につかっていたのです。割を食ったのは物価高で苦しむ私たちの暮らしです。
◆まともな暮らしに戻す
植田総裁の当面の仕事は政府と大企業をぬるま湯から出すとともに、物価高騰を抑制しつつ節約疲れの人たちに、まともな暮らしを取り戻してもらうことです。
飲食店に関して気になる指標があります。調査会社の東京商工リサーチによると、23年のラーメン店の倒産が45件と前年から2倍以上増えたのです。
食材や水道、光熱費の上昇や人手不足に伴う人件費の高騰が資金繰りを圧迫したことが原因です。ラーメン店が直面する現実は、景気の最前線の縮図です。
アベノミクスの副作用と格闘する日々は、植田総裁の退任まで続くはずです。経済指標を分析し、景気を急激に冷やさないよう金融政策を徐々に正常軌道に戻す、薄氷を踏むような作業でしょう。
ただ、暮らしぶりは指標だけでは分かりません。