「浪江に再びにぎわいを」移住した若者たちが初のフェス 新設の醸造所でお酒や音楽「日本全体で考えよう」(2024年4月254日『東京新聞』)

 
 福島県南相馬市へ移り住み、3年前に酒蔵を立ち上げた若者が中心となって、醸造所のある隣の浪江町でお酒や音楽を楽しむイベントを初めて開いた。東日本大震災東京電力福島第1原発事故から13年がたち、復興への歩みを進める現地の様子を直接見てもらいたいと企画し、県内外から120人が集まる盛況となった。1回限りで終わらせず、あの日を境に途絶えた地域の祭りを再興し、もう一度にぎわいを取り戻すまで続けていくつもりだ。(神谷円香)
イベントではhaccobaのお酒を飲み放題で提供した=いずれも福島県浪江町で

イベントではhaccobaのお酒を飲み放題で提供した=いずれも福島県浪江町

◆埼玉から移住、醸造所や交流拠点オープン

「ASIAN KUNG―FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)」後藤正文さん(右)の歌を間近で聞いて盛り上がる参加者

「ASIAN KUNG―FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)」後藤正文さん(右)の歌を間近で聞いて盛り上がる参加者

 20日浪江町醸造所前に設けたステージに、人気バンド「ASIAN KUNG―FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)」の後藤正文さん(47)が登場すると、来場者は歓声を上げ、お酒を手に歌声に酔いしれた。浪江町出身の佐藤優介さん、人気バンドAnalogfish(アナログフィッシュ)もステージに立ち、3時間半にわたる宴(うたげ)を盛り上げた。
 イベントを主催したのは、南相馬市小高区の酒蔵「haccoba(ハッコウバ)」。代表の佐藤太亮さん(32)は埼玉県出身。2016年7月まで人が住めなかった場所でゼロから挑戦することへの魅力を感じ、20年6月に移住した。
 その年に起業し、翌春に醸造を始めた。日本酒とは違い、米とこうじ以外も原料に用いて独特の風味を醸す「クラフトサケ」が評判を呼んだ。昨年7月には浪江町に2カ所目の醸造所を新設。今年2月には、JR小高駅(南相馬市)の無人駅舎に小さな醸造所を造り、交流拠点としても活用している。

◆「祭りは地域の人の生きる活力に」

参加者に話しかける主催者の佐藤太亮さん(右)

参加者に話しかける主催者の佐藤太亮さん(右)

間近で聞く音楽に盛り上がる参加者

間近で聞く音楽に盛り上がる参加者

 ただ、地域のにぎわいづくりは道半ばだ。「福島の復興は日本全体で考えるべきこと。現地に来て、当事者意識を持ってもらえたらうれしい」。イベント開催にはそんな期待もあった。
 目当てのバンドのライブを楽しんだ千葉県松戸市の会社員岩田みつるさん(42)は「浪江には初めて来た。周りを歩いて、(4年前にできた)道の駅なみえなど新しい建物も見てきた」と話した。車で会場に向かう途中、被災地を通ったという山形県東根市の会社員尾崎丈さん(25)は「自分の意思で初めて福島に来た。イベントの1回目に立ち会えて良かった」と笑顔を見せた。
haccobaの浪江醸造所(右奥)

haccobaの浪江醸造所(右奥)

 浪江町を会場に選んだのは、醸造所のある地域の守り本尊「藤橋不動尊」の祭り「不動市」の再興につなげたいと願ったことも、理由の一つだった。後藤さんは「祭りは地域の人を勇気づけ、生きる活力になる。誰が出演していても楽しめるイベントになっていくといい」とエールを送った。