東京都が条例化 カスハラ許さぬ社会に(2024年4月24日『東京新聞』-「社説」)

 顧客による事業者や従業員への著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント」(カスハラ)を防ぐため、東京都が全国初の条例制定を目指している。安心して働ける職場とするために一定の歯止めは必要だが、消費者の正当な権利を損なわない配慮も必要となる。
 繰り返される暴言、金品や土下座の強要…。カスハラの被害が広がっている。連合による労働者への調査では「カスハラの件数が増えた」「深刻化した」との回答がともに4割近くに上った。
 従業員が病欠や退職に追い込まれたり、店舗が廃業を余儀なくされたりする事例もあるという。
 同じ嫌がらせでも、パワーハラスメントセクシュアルハラスメントなどは、事業主の防止義務が法律に明記されている。職場での対策が進み、人々の認識も改まりつつあると考えられる。
 一方、カスハラは法律に同様の規定がない。国が事業主向けの緩やかな指針を示した程度だ。
 東京は企業や店舗の集積地であり、都が国に先駆け、消費者や事業主などの責務を明文化する意義は大きい。条例化の動きは三重県桑名市などにもある。「カスハラは許されない」という意識を社会が共有する契機にしたい。
 都の「たたき台」は、条例でカスハラを大まかに定義し、さらに指針で「威圧的な言動」「拘束的な行動」など類型を示すとしている。罰則は設けない方向だ。
 カスハラは線引きが難しく、該当行為を分かりやすく示すよう求めたい。悪質な違反には刑事罰や民事賠償での対応が可能で、罰則を設けないのは妥当だ。カスハラを巡る紛争増加も予想され、解決する第三者機関が重要となる。
 課題は正当な苦情を抱える消費者が萎縮したり、事業者に排除されないようにすることだ。商品事故や悪徳商法は後を絶たず、消費者が品質や価格などに疑問を持つのは当然だ。条例が消費者を軽んじる風潮を生んではならない。
 消費者側も、労働力不足で商品やサービスの質の維持が困難な時代だと理解する必要がある。
 日本ではかつて「お客さまは神様」とする傾向が強かったが、1人の市民が時に客に、時に事業者や労働者になるのが社会だ。どちらかを絶対視するいびつな関係は誰にとっても不幸である。互いに相手の立場を尊重することで、調和の取れた関係を築きたい。