東京・明治神宮外苑地区の再開発を巡り、日本弁護士連合会は3月、都の環境影響評価(アセスメント)の評価書の内容に問題があるとして、審議のやり直しや、工事の停止検討を求める会長声明を出した。取りまとめに関わった牛島聡美弁護士が取材に応じ「われわれの感覚では、このアセスが通ればどんな再開発でも可能になってしまいかねない」と指摘する。(森本智之)
環境アセスメントでは、再開発が外苑の自然環境に与える影響を事業者自らが調査し、都がその内容を確認する。三井不動産など事業者側がまとめた評価書は都の承認を経て2023年1月に告示。これを受け同3月に着工していた。
◆イチョウの生育不良、評価書に記載せず
評価書の内容について、牛島氏が特に問題視するのが、外苑のシンボルであるイチョウ並木を巡る記載だ。評価書がまとまる直前の22年秋、文化財保護を提言する専門家組織の日本イコモス国内委員会の石川幹子理事らが一部で枝が枯れたり樹勢が衰えるなど生育状況に問題が見つかったと公表。事業者側も「落葉が早い木がある」と認めた。
だがこの生育不良は評価書に反映されなかった。評価書では、生育不良が見つかる前の、いずれのイチョウも健康に問題がないとする調査結果が記載された。牛島氏は「実際には衰退が確認された木があるのに、記載されなかった。再開発が環境にどんな影響を与えるのか検討するのに、現在の状況が正確に把握できていない」と批判する。
◆新宿御苑周辺では地下トンネル建設後、樹木枯死が相次いだ
評価書の告示後、日本イコモスは、生育不良のイチョウの不記載やその他の点も含め、「評価書の内容には多くの誤りがある」として、アセスメントの再審議を求めた。
再開発では、並木の西側に新しい神宮球場が隣接することになるため「イチョウの生育がさらに悪化する可能性がある」と懸念されている。日本イコモスは、新宿御苑では地下トンネルの建設後に周辺で樹木の枯死が相次いだことを調査で明らかにし、巨大構造物が樹木に悪影響を与えた先例と指摘した。
◆一方の当事者だけの意見で結論
再審議請求を受け、有識者でつくる都の審議会は事業者に評価書の内容を再説明させた上で23年5月、「従来の評価や予測を変更しなければならないような虚偽や誤りはなかった」と結論づけた。日本イコモスは審議会への出席を求めたが都側は認めなかった。
牛島氏はこの点についても「一方の当事者だけの意見を聞いて結論を出した。都の条例上も、『事業者その他関係者を出席させることができる』としているのに、専門家として詳細に問題点を指摘している日本イコモスの参加を認めず、議論は深まらなかった」と対応を問題視した。
◆疑問の数々に納得いく説明がない
その上で、評価書の内容や事業者の説明について「日本イコモスの指摘に対する疑問の数々に納得のいく説明がなされていない。審議会の速記録を読むと、事業者が『事後調査で回避・低減等の措置を確認する』という回答があるが、工事を進めながら検討するようなレベルのものではない」と批判する。
「日本イコモスの専門家の出席を得て、事業者と相対して議論をして明確にするのが望ましい。都の環境アセスメントの条例は先進的な内容もあるが、本件の評価書は、条例が求める客観的、科学的な水準に達していない」と述べた。
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