世界の軍事費 軍拡の流れを断たねば(2024年4月24日『東京新聞』-「社説」)

 世界の軍事費が過去最高を更新した。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫が反映された。軍備拡張の流れを断ち、地球温暖化など共通の課題にこそ国際社会が協力して取り組むべきだ。
 スウェーデンストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が公表した2023年の報告書によると、世界の軍事支出総額は前年比6・8%増の2兆4430億ドル(約378兆円)。比較できる1988年以降の最高額だ。
 
 
 各国の軍事支出=表=を比較するとロシアは前年比24%増、ウクライナは同51%の急増で、軍事費は政府支出総額の58%を占める。ガザへの攻撃を続けるイスラエルも前年比で24%増えた。
 80年代の冷戦期をも上回る各国の軍事支出は、多くの市民を死傷させ、数え切れない避難民を生み、街の破壊につながる。
 戦闘地域だけでなくアジアでも軍事費の伸びは著しい。中国の軍事支出増は29年連続で世界最多の米国の3分の1に迫る。中国の脅威は東アジアの軍拡競争を招き、日本は前年比11%、台湾も同11%の防衛・軍事費を積み増した。
 SIPRIの研究員は「軍事力優先は、不安定な地政学と安全保障情勢の中で、行動と反動のスパイラルに陥る危険がある」と指摘する。武力衝突を避けるための軍備増強が、紛争を誘発することは避けなければならない。
 地域紛争でも世界への影響が大きいことは、穀倉地帯のウクライナへの侵攻が世界の食糧危機と物価高騰を、中東情勢の不安定化がエネルギー危機を招いたことを見れば明らかだ。軍拡競争はいずれ偶発的な大規模紛争を起こし、人類の存在をも脅かしかねない。
 東アジア情勢の緊迫化に対応するため、岸田文雄内閣は国内総生産GDP)比1%程度に抑えてきた防衛費を、関連予算を含めて2%に倍増する方針を決めるなど専守防衛の転換を進める。
 しかし、平和憲法を有する日本の役割は軍拡競争に参加することではなく、国際社会の先頭に立って、軍拡の流れを断ち、平和への道を粘り強く説くことである。