人とクマ、不幸な出会いを避けるには(2024年4月24日『産経新聞』-「産経抄」)

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世界遺産高野山の寺院「一乗院」に出没した子グマ
 
 バブル景気の終わりかけ、平成2年のサラリーマン川柳に切ない秀句がある。<一戸建(だて)手が出る土地は熊も出る>。実際に出没したかどうかまでは知らない。人の住宅事情が、自然界を大きく侵した時代があったのは確かだろう。
▼いつしか人とクマの立場は入れ替わり、近年は市街地に現れる「アーバンベア」が増えた。ツキノワグマが好むドングリの不足など、背景はさまざまらしい。昨年度は人の被害が約200件を数えた。クマが冬眠から目覚めるこの時節も、人里での駆除のニュースが届いている。
▼人とクマ、不幸な出合いをどう回避したものか。「すみ分け」は口で言うほど容易ではない。クマが眠りにつく冬まで、頭の痛い季節が続く。そのクマが先日、指定管理鳥獣に追加された。捕獲や生息状況の調査に国から交付金が出るようになる。
▼昨年度はツキノワグマだけで8千頭近くが捕殺された。クマは行動範囲が広く、国内の正確な個体数は把握が難しい。危険だからと殺生を重ねれば、その先に待つのは絶滅だろう。長野県などで行われている「学習放獣」は一つの手かもしれない。
▼捕獲したクマを大きな音で脅かし、人の怖さを分からせた後で山奥に返す手法という。それとて地元の同意が欠かせず、他での実績は少ない。高齢化や過疎化による林業の衰退が、人里とクマの版図を隔てた里山の荒廃を招いて久しい。それもアーバンベアを生んだ一因という。
▼人にあだをなすクマの駆除はやむを得ないものの、自然界の異変には人間界の事情が影を落としていることも忘れまい。20年ほど前のサラ川から。<熊が出た熊から見れば人が出た>。クマの目から見た「すみ分け」の策を講じるのも、こちら側の責任である。