スマホアプリの新法案 競争と安全の両立不可欠(2024年5月9日『毎日新聞』-「社説」)

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アップルとグーグルを念頭に置いた新規制について話す古谷一之・公正取引委員会委員長(右)=東京都千代田区霞が関で4月26日
 
 スマートフォンは情報発信だけでなく決済など多彩な機能を備え、社会や経済にとって重要なツールになっている。公正で安全に使えるルールを確立すべきだ。
 基本ソフト(OS)の運営事業者に対する規制を、公正取引委員会が強化する。アプリの配信や決済システムなどで他社の参入を妨害することを禁じる法案を、政府が国会に提出した。
 アプリの流通市場はアップルとグーグルの寡占状態だ。例えばアイフォーンでは、アップストアからしか入手できない。アプリ事業者が支払う手数料は売り上げの最大30%に及ぶ。OS事業者に利益を吸い上げられる姿は「デジタル小作人」と例えられる。
 アプリの安全性をチェックし、情報流出などのリスクからスマホを守るために必要な措置だと、巨大IT企業は説明する。だからといって現在の手数料が妥当なのか、外部からはわかりにくい。
 他社のストアを使えるようになれば、競争を通じて適正な水準に近づく。手数料が下がれば、利用者の負担軽減につながる。
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アイフォーンではアップルのアップストアからしかアプリをダウンロードできない
 現行の独占禁止法は問題が起きてから対応する。違反行為を見つけても立証に時間がかかる。これでは技術やサービスの変化に追いつかない。
 法案は、違反があれば迅速に規制できるよう、具体的な禁止行為をあらかじめ定めた。「事前規制」と呼ばれる手法への転換だ。
 欧州連合EU)も3月、同様の規制の本格運用を始めた。日本がEU型と異なるのは、OS事業者に一定の裁量を認める点だ。
 セキュリティーや青少年保護などの対策を他社のストアが講じているか、審査する権限を与える。スマホの安全性確保を訴えるアップルなどの主張に配慮した。
 この結果、審査を必要以上に厳しくして他社を排除する余地が生じた。政府はOS事業者の恣意(しい)的な運用を防ぐために、審査の指針を策定する方針だ。競争と安全を両立させるために、実効性のある対策が欠かせない。
 プラットフォーム事業は寡占が生じやすい。公取委は専門人材の育成や関係省庁との連携を進め、監視体制を強化する必要がある。デジタル時代の競争環境を守る責務を果たさなければならない。