複合危機がG7の結束を試す(2024年4月22日『日本経済新聞』-「社説」)

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中東、欧州などの危機でG7の結束は試練にたたされている(前列㊨は上川陽子外相)=AP
 
 欧州や中東の戦火はやまず、アジアでは中国が強権的な振る舞いを続けている。同時に進行する危機にどう連携を深めて対処すべきか。主要7カ国(G7)は難しい局面を迎えている。
 G7がイタリアで外相会合を開き、①中東②ウクライナ③中国を含むグローバルな課題――の3つの共同声明をまとめた。
これらの問題は有形無形につながっており、複合的な危機ととらえて策を講じる必要がある。ロシアによる侵略を中国は経済面で、イランは軍事でも支えている。米国が中東への関与を強めると、他地域の対応が手薄となりかねない。台湾統一をうかがう中国はウクライナ支援の成否を注視する。
 イスラエルとイランの応酬で緊迫する中東危機でG7はすべての当事者に自制を求めた。イランの行動次第では追加制裁の用意があるとした。事態の早期収束へあらゆる努力を続けるのは当然だ。
 日本は米英が先行する対イラン制裁に同調する前に、独自のパイプを生かしてイランに働きかける余地がある。
G7はウクライナ支援を進める決意を重ねて示した。米議会下院で法案が可決され、停滞していた米国による支援の再開に向けて進展があったのを歓迎したい。
 中国による台湾やフィリピンへの威圧といった不穏な動きも多数の死傷者をもたらしてはいないとはいえ、見過ごせない。日米は先の首脳会談で対中抑止を念頭に防衛協力の深化で一致した。
 欧州諸国もメンバーに加わるG7は今回、南シナ海などでの力による一方的な現状変更に反対すると再確認した。アジアから距離のある欧州がインド太平洋への関与を続ける意義は大きい。
 欧州は中国と距離を縮めようと試みている。ドイツのショルツ首相が経済界を伴って訪中したのが一例だ。経済面で中国との結びつきを重んじるのはやむを得ないが、日米との足並みの乱れは中ロを利する。自由な国際秩序の維持にはG7の結束が不可欠だ。