イランの大規模攻撃に関する社説・コラム(2024年4月16日)

イラン報復攻撃 自制し衝突拡大回避を(2024年4月16日『北海道新聞』-「社説」)

 中東の地域大国イランが、イスラエル弾道ミサイルや自爆型無人機で大規模に攻撃した。
 イランが長年敵対関係にあるイスラエルを直接攻撃したのは初めてだ。今月1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことへの報復だとしている。
 イスラエル軍は99%を迎撃し、1人が負傷したという。政府は反撃に踏み切る構えを見せている。
 イスラエルとイランが本格的に衝突すれば中東全域に紛争が拡大しかねない。イスラエルの後ろ盾の米国も乗り出せば世界的な戦乱になる恐れがある。双方は報復をエスカレートさせてはならない。
 緊張が激化している背景には、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルと、イランが支援するイスラム組織ハマスの戦闘がある。直ちに停戦が実現するよう、関係国は外交努力を急ぐ必要がある。
 イランではこれまでもイスラエルの関与が疑われる軍幹部らの暗殺が起きていたが、在外公館が攻撃されたのは初めてだった。
 現政権を支える保守強硬派を中心に対抗措置を求める声が高まり、最高指導者ハメネイ師は報復を宣言していた。
 外交施設への攻撃は国際法違反である。とはいえ武力を使って報復することは認められない。
 イランには抑制した面もある。イスラエルは中東の軍事大国であり、米国の本格介入も避けたいからだ。このため着弾前に攻撃を発表し、報復後に作戦は終了したと主張して幕引きを図った。
 他方、イスラエルのネタニヤフ政権では極右が激しく反発し、対抗措置を求めている。
 米国のバイデン大統領はネタニヤフ首相との電話会談で、反撃する場合には関与しないと伝えた。イスラエルは自制すべきだ。
 イランの攻撃を受け、国連安全保障理事会は緊急会合を開いた。グテレス国連事務総長は最大限の自制を求めたものの、イスラエルとイランは非難の応酬を続けた。
 暴力の連鎖を止めるため国際社会の強い働きかけが欠かせない。
 ガザでの戦闘休止に向けては米国やカタールの仲介で交渉が続いているが、イスラエルハマスの条件は食い違ったままだ。
 イスラエルはガザ南部から部隊を一時的に撤収させたという。だが避難民が密集する最南部ラファに侵攻する方針を変えていない。
 既に女性や子どもを中心に3万3千人以上が犠牲になっている。双方は直ちに戦闘をやめ、恒久的な停戦を実現させねばならない。

報復の連鎖 絶対阻止せよ/イランがイスラエル攻撃(2024年4月16日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』ー「社説」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)


 イランが敵対するイスラエルに初の直接攻撃を行った。中東の軍事大国同士の衝突は、地域全体を巻き込んだ戦争に発展する恐れがある。米国と欧州、そして日本は全力を挙げて、両当事国に自制を求める必要がある。報復連鎖の拡大は絶対に阻止しなければならない。

 イランは1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことへの報復として、300を超える弾道ミサイルや自爆型無人機などをイスラエルに向け発射。ほとんどはイスラエル軍などによって撃墜されたが民間人の負傷者も出た。

 大使館攻撃では、レバノンやシリアに展開するイラン革命防衛隊の部隊将官らイラン人7人が死亡した。イスラエルは関与を否定も肯定もしていないが、シリア領内での空爆は常態化しており、関与は極めて濃厚だ。

 死亡した将校がレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラ支援の中心人物だったことから、攻撃はイスラエル北部への攻撃を続けるヒズボラにダメージを与え、その背後にいるイランをけん制する目的だったとみられる。

 イランは1979年のイスラム革命以来、同じイスラム教徒であるパレスチナ人を抑圧するイスラエルを宿敵と位置付け、国家の生存権すら認めていない。それでも長年直接戦火を交えることはなく、イスラエルとはヒズボラを使った“代理戦争”を続けてきた。双方とも敵対関係を解消するつもりはないものの、制御不能に陥る事態は回避。紛争を繰り返してきた中東独自のバランス感覚が発揮されてきたと言える。

 だがイラン大使館攻撃が一線を越えた。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。ハメネイ師は「われわれの領土に対する攻撃」と受け止め、報復は不可避だった。

 それでも大量の兵器を動員した一斉攻撃はあまりにも無謀で、無責任な行動だ。求めているはずの核協議再開やその後の経済制裁解除への希望は水泡に帰し、国際的な孤立を一層深める可能性が高いことを知るべきだ。

 当然イスラエル側にも非はある。中東地域の不安定化につながると知りながら、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を長引かせた。民間人の犠牲者を承知のガザ攻撃は、ヒズボラによるイスラエル領内攻撃に格好の口実を与えていた。イラン大使館攻撃に関与していたなら責任は一層重い。

 一方イランはミサイルなどがイスラエルに到達する前に攻撃開始を発表した。そこには自国のメンツは保ちながら、被害は最小限に抑え事態を収束させたいという裏のメッセージがある。イスラエルはこれを読み取り、過剰反応を自制すべきだ。米国がイランへの反撃に不参加をいち早く表明したのは、イランの意図を理解したからだ。

 国連安全保障理事会イスラエルの要請を受け緊急会合を開催。先進7カ国(G7)もオンライン首脳会議で対イラン制裁を検討するなど国際社会の対応は素早かった。だが引き金となった大使館攻撃の真相と責任を軽視しイラン非難一辺倒となれば、「二重基準」のそしりは免れまい。

 日本は国連とG7の枠組みを重視しながらも産油国であるイランと長年、友好関係を維持してきた。中東諸国の信頼も厚い。欧米に同調するだけでないバランスの取れた危機外交を期待したい。共同通信・半沢隆実)

 

イランの報復攻撃/戦線拡大の愚は許されない(2024年4月16日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 イランとイスラエルの戦闘は中東全体を巻き込む恐れがあり、許されるものではない。国際社会には、両国に対してできる限りの働きかけを行い、戦線拡大を防ぐ責務がある。

 イランが、イスラエル弾道ミサイルや自爆型無人機で大規模に攻撃した。イスラエル軍や米軍は、ミサイルや無人機の多くを迎撃したとしているが、一部の基地で小規模な被害が出たほか、少女1人が負傷した。

 イランは、1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことに対する報復としている。ミサイルや無人機が撃墜されていなければ、被害はもっと大きくなったとみられる。イランの攻撃は厳しい非難に値する。

 イスラエル政府が、「報復する権利がある」として、反撃を示唆していることは大きな懸念材料だ。イラン側は、今回の攻撃を「限定的な作戦」と述べ、攻撃を継続しない考えを表明しているものの、報復があれば再度攻撃することを示唆している。

 イスラエルが今回の攻撃を理由に報復を行えば、イランの反撃を誘発することになる。報復合戦が続けば、戦線の拡大は避けられない。イスラエル、イラン双方に強い自制が求められる。

 イスラエルがイランやイスラム組織ハマスに対する強硬な姿勢を緩めなければ、国際的に孤立することは免れず、戦闘に拍車がかかる恐れがある。敵対する勢力への抑制を欠いた攻撃に対して、国際社会が強く反発していることをネタニヤフ首相は自覚すべきだ。

 国連安全保障理事会が緊急会合、G7首脳もオンラインで首脳会議を開き、対応を協議した。国連やG7はこれまで、イスラエルハマスの戦闘に対して影響力を発揮できていない。国際社会が協力して、戦争状態の回避に向けて、有効な手だてを講じることができるのかが問われる。

 焦点となるのは、米国の姿勢だ。米国は、ハマスとの戦闘でイスラエルに対して武器供与などの支援を行い、国連安保理でも同国への非難決議などを拒否してきた経緯がある。イスラエルにとって唯一の後ろ盾ともいうべき存在だ。

 その米国がイランへの反撃に反対し、報復攻撃などを参加、支持しない姿勢を示しているのは注目される動きだ。米国が国際社会と協調する形で、イスラエルに強いメッセージを発信し続けることを求めたい。

 イランに対しても中東諸国を含めた国際社会が連携して、自制を促すことが重要だ。


イランの大規模攻撃 報復の連鎖断ち切る時だ(2024年4月16日『毎日新聞』ー「社説」)

 パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘が続く中、これ以上、中東での紛争を拡大させてはならない。

 イランが無人機やミサイルによる計300発以上の攻撃をイスラエルに加えた。

 一部が領内に着弾して少女1人が負傷し、空軍基地に被害が出たが、ほとんどは米英やヨルダンなどの支援を受けて迎撃した。

 イランは長年、イスラエルと敵対してきた。これまではレバノンイスラムシーア派組織ヒズボラやイエメンの武装組織フーシ派など親イランの代理勢力による攻撃にとどめていた。イスラエル領を直接攻撃するのは初めてだ。

 今月初め、シリアの首都ダマスカスのイラン大使館が空爆され、革命防衛隊の幹部らが殺害された。それに対する報復だと主張している。

 周辺国に事前通告したうえ、ミサイルなどの発射を発表した。異例の対応は、被害を市民に及ぼさないためとみられる。

 作戦終了後には、「大成功だった」「完了した」と述べ、さらなる戦火の拡大は望まない姿勢をにじませた。

 注目されるのはイスラエルの出方だ。ネタニヤフ首相は「危害を加える者を攻撃する」と反撃を示唆している。報復が続けば、事態はエスカレートし、イランとの本格戦争になるリスクが高まる。

 「この地域も世界も、これ以上戦争をする余裕はない」「瀬戸際から後退する時が来た」

 国連のグテレス事務総長は、ロシアのウクライナ侵攻やガザでの人道危機を踏まえ、新たに戦端が開かれることに警鐘を鳴らした。

 主要7カ国(G7)はオンラインで首脳会議を開き、声明で「最も強い言葉で明確に非難する」とイランやその支援勢力に攻撃をやめるよう要求した。

 また、「我々は引き続き、状況の安定化と混乱の拡大回避に努める」と述べ、事態の収拾に全力を挙げる姿勢を示した。

 パレスチナでの紛争によって地域の不安定さが増しているのは明らかだ。まずイスラエルがガザでの攻撃を停止する必要がある。

 報復の連鎖を断ち切らなければならない。米国をはじめ国際社会は、そのための外交努力を尽くすべきである。

 

イランの攻撃 関係国は報復の連鎖断ち切れ(2024年4月16日『読売新聞』-「社説」)

 敵対するイランとイスラエルがこれ以上、戦闘を続ければ、取り返しのつかない事態に陥ってしまうだろう。危機の拡大を防ぐため、すべての当事国に自制を求める。

 イランがイスラエルを300以上の無人機やミサイルで攻撃した。イランによるイスラエルへの直接攻撃は初めてである。

 イスラエルは、多くの兵器を防空システムなどで迎撃したため、被害は南部の空軍基地などに限られた。死者も出ていないという。米国も迎撃に加わった。

 イランの攻撃は中東の紛争を拡大しかねない危険な挑発と言える。先進7か国(G7)首脳はオンラインで協議し、首脳声明でイランを非難した。

 今回の攻撃についてイランは、シリアにある自国の大使館施設がイスラエル空爆されたことへの報復だと主張している。イスラエル空爆を認めていないが、関与は確実視されている。

 領事関係に関するウィーン条約は、在外公館の不可侵を定めている。空爆国際法に反していることは明らかだ。

 イランが今回の攻撃で、テルアビブなど経済の中心地を攻撃対象から外したことには留意したい。報復攻撃の方針も、周辺国に事前に通告していた。迎撃体制を整えるよう促したものとみられる。

 イランの振る舞いは抑制的だったと言える。報復の応酬は、一歩誤れば地域全体に戦闘が拡大し、収拾がつかなくなってしまうという判断からだろう。

 攻撃後、イランの革命防衛隊の司令官は、作戦完了を宣言した。イスラエルとの対決をさらに激化させるつもりはない、という重要なメッセージではないか。

 イスラエルは、イランのそうした攻撃の態様を冷静に分析し、追加の軍事行動を控えるべきだ。

 イスラエルパレスチナ自治区ガザでイスラム主義組織ハマスとの戦闘を続け、多くの犠牲者を出している。ハマスによる越境攻撃が発端とはいえ、民間人への無差別攻撃が人道危機を招き、中東情勢を不安定にしている。

 今回の報復攻撃の直前、イランはホルムズ海峡付近でイスラエル関連の船舶を 拿捕だほ した。

 イランが支援するイエメンの反政府武装勢力フーシは紅海で船舶を攻撃しているが、イランが直接、拿捕するのは異例だ。

 ホルムズ海峡は、中東の原油を日本をはじめ世界中に運ぶルートだ。イランは、この海域の安全を脅かしてはならない。

 

イラン・イスラエル報復の連鎖回避を(2024年4月16日『日本経済新聞』-「社説」)

イランのミサイルを迎撃するイスラエルの防空システム「アイアンドーム」(14日、イスラエル中部)=AP


 イランが在シリアのイラン大使館周辺に空爆を受けた報復だとして、イスラエルをミサイルやドローン(無人機)で攻撃した。パレスチナ自治区ガザでの衝突で揺れる中東の混迷が一段と深まり、戦火が広がりかねない。報復の連鎖を避けなければならない。

 イランがイスラエルに直接攻撃を仕掛けたのは初めてだ。イスラエルの反撃次第では、国対国の交戦に発展する恐れがある。イスラム組織ハマスなど非国家主体との衝突とは次元が異なる。

 今回の攻撃は99%が迎撃され、死者はなかったと伝えられた。イランは2週間近く報復を警告したうえ、到達に時間のかかるドローンを多用し、迎撃の猶予を与えた。最高指導者ハメネイ師は「罰せられなければならない」と明言しており、イスラエルに目に見える形で報復せざるを得なかった。一方で人的被害を抑える計画を練った形跡がある。

 イスラエルやその後ろ盾の米国と全面衝突する意志はないとのイラン側のメッセージではある。しかし武力行使は人命を危険にさらし、際限ないエスカレーションを招く恐れがある。主要7カ国(G7)首脳が直ちにイランの攻撃を非難したのは当然だ。

 イスラエルは自ら明言しないが核保有国とみられており、イランは核兵器製造の力を備えつつある。両国の報復合戦は極めて危険な領域に至る恐れが強い。双方に最大限の自制を求めたい。

 バイデン米大統領イスラエルのネタニヤフ首相と電話協議し、イランへの反撃に反対すると伝えたと米メディアは報じた。米軍はイスラエル軍を支援し「ほぼ迎撃」の成果をつくった。イスラエルに過剰な報復を思いとどまらせようとする努力を評価すべきだ。

 2020年に米軍がイラクイラン革命防衛隊の司令官を殺害した際、イランはイラク駐留米軍基地に報復攻撃を加えた。このとき米国は反撃を思いとどまり、両国間の緊張は続いたが全面衝突は回避した。しかしネタニヤフ氏は求心力の回復や政権の延命のため、強硬な対抗措置をいとわないとの見方がある。

 中東情勢がいっそう緊迫し原油価格が上昇すれば世界経済への影響も大きい。両国とも攻撃を受けたことで損なわれた抑止力の回復を急ぐあまり強い対応をとる懸念はある。危機の増幅を国際社会は一致して食い止める必要がある。

 

イランの攻撃 中東戦争への拡大を防げ(2024年4月16日『産経新聞』-「主張」)

 イランがイスラエルに対して大規模な直接攻撃を行った。

 イスラエル領内に向けて、弾道ミサイル巡航ミサイル、自爆型無人機(ドローン)を300発・機以上も放った。イスラエル軍や米軍などが迎撃し、ほとんどを撃墜した。

 イランはイスラエルと長年の敵対関係にあるが、直接攻撃は初めてである。これまではイランの代理勢力がイスラエルを攻撃したり、双方が第三国などで互いの標的への攻撃を繰り返してきた。

 イランは「在シリアのイラン大使館が4月1日に攻撃されたことへの報復だ」と主張し、これ以上の事態の激化を避けたいとの姿勢を示している。

 だが、他国の領土へ向けた直接攻撃は一線を越えている。イランは強い非難を免れない。

 先進7カ国(G7)首脳はオンラインの緊急会合を開き、イランによる攻撃を「最も強い言葉で非難」し、イランや代理勢力による攻撃の停止を要求する声明を出した。イスラエルへの「全面的な連帯と支援」も表明した。いずれも妥当だ。

 イスラエルは反撃を検討している。イランやその代理勢力が攻撃を重ねるかもしれない。事態がエスカレートしてイスラエル・イラン間の「第5次中東戦争」へ発展することは何としても避けたい。

 影響は地球規模である。米国が今以上に中東に関与すれば、インド太平洋地域などへの目配り、対応がおろそかになる。抑止力の低下で台湾有事への懸念は高まる。ウクライナ支援も滞りかねない。

 世界のエネルギー安全保障にも悪影響がある。日本にとっても原油の9割超を依存する中東の安定は死活的に重要だ。

 イスラエル、イラン両国と友好関係を持つ日本は、事態の沈静化に向け、外交努力を続ける必要がある。


 同時に、政府や企業は最悪の事態に備え、関係地域の邦人の避難や保護に万全を期してもらいたい。自衛隊派遣の準備も急ぎ済ませておくべきだ。

 イスラエルはアローミサイルで弾道ミサイルを迎撃した。巡航ミサイルやドローンには戦闘機に加え、アイアンドームという防空システムも活用したとされる。中国や北朝鮮などの脅威にさらされている日本にとって教訓となる備えである。

 

イランの攻撃 ガザ停戦で報復を断て(2024年4月16日『東京新聞』-「社説」


 イランがイスラエル無人機や弾道ミサイルなどで攻撃した。シリアにあるイラン大使館が攻撃されたことへの報復だ。報復の連鎖を断つため、国際社会は双方に自制を求めると同時に、問題の元凶であるパレスチナ自治区ガザでの停戦実現を急ぐべきだ。
 イスラエル軍によると、イランは数百発の無人機やミサイルを発射。大半は同軍や米英仏、ヨルダン軍に撃墜された。少女1人が負傷したが、死者は出なかった。
 1979年の革命で誕生したイランのイスラム政権はイスラエルを聖地エルサレムを奪った「イスラムの敵」と規定し、国家と認めず、革命後、両国は断交した。
 これまで親イラン民兵勢力とイスラエルとの間での軍事衝突はあったが、イランがイスラエル本土を直接攻撃したのは初めてだ。
 ただ、今回の攻撃では都市部を標的から外し、開始の72時間前には近隣諸国に事前通告するなど、自制的だったともいえる。
 保守派が実権を握るイラン指導部は、主権が及ぶ自国の外交施設を攻撃され、断固たる決意を内外に示す必要に迫られたものの、イスラエルや後見役の米国との軍事力の圧倒的な差から全面戦争は避けなければならず、限定的な攻撃にとどめたものとみられる。
 イラン国連代表部は交流サイト(SNS)に「問題はこれで終わったものと考える」と投稿し、事態収拾を示唆すると同時に、イスラエルが再び攻撃すれば厳しく反撃するとも記す。両国間には直接対話の手段がなく、国際社会は意思疎通の手助けをすべきだ。
 イスラエルのネタニヤフ政権は内外の批判に直面し、ガザの人道危機でバイデン米政権と関係が悪化。イラン公館の攻撃には国際社会の関心をガザからずらすとともに、緊張を高めることで米国との溝も埋め、国内での求心力を回復する狙いがあったのだろう。
 このため、イスラエル政権がイランの攻撃への報復を口実に、冒険的な軍事行動を続けることも懸念される。米国がイスラエルに防衛協力を約束しつつ、イランへの対抗措置には加わらないと伝えたことは賢明な判断ともいえる。
 そもそもイランとイスラエルとの緊張の根底にはガザでの戦闘があり、中東沈静化には、ガザでの停戦実現が不可欠だ。国際社会はあらゆる外交努力を傾け、これ以上の犠牲を避けるべきである。

けんかの後で、和解に向かう「仲直り行動」を取る動物はかなり…(2024年4月16日『東京新聞』-「筆洗」)

 
 けんかの後で、和解に向かう「仲直り行動」を取る動物はかなり多いそうだ。謝罪のキスをするというチンパンジーはもちろん、イヌ、オオカミ、ウマ、ハンドウイルカ…。仲直りができる鳥や魚もいるという
▼群れを形成して暮らしてきた動物にとって仲直りには利があったのだろう。群れの中でいつまでも敵対していては落ち着かないし、周りも迷惑。和解の術(すべ)を進化の過程で身に付けていったと考えられる
▼反対にペットのネコは仲直りの傾向がないそうだ。野生のネコの原種が群れをつくらなかったことと関係があるようで争いの後、どうするかといえば、相手と単に距離を置くだけ。確かにそんな場面を見たことがある
▼長く敵対してきた両国に仲直りを期待するのは無理な話とはいえ、せめてネコのやり方ぐらいはできないか。イランとイスラエルの対立である。イスラエルが在シリアのイラン大使館を攻撃したと思えば今度はイランがイスラエルに対し無人機やミサイルで報復攻撃に出た
▼収まらぬイスラエル側には報復に対する報復を求める声がある。悪いのは相手。双方ともに言い分はあろうが、報復の連鎖となれば中東はおろか、世界全体規模の紛争につながる可能性も否定できまい
▼両国に自制を求め、国際社会はこれ以上の情勢悪化をどうあっても食い止めたい。ヒトもまた同じひとつの群れで暮らしている。
 

イラン報復攻撃 中東の安定へ自制求める(2024年4月16日『新潟日報』-「社説」)

 報復の連鎖が起こり、中東情勢が泥沼化する事態は断じて避けたい。必要なのは、地域の安定を図ることで、戦火を拡大させることではない。イランとイスラエルの双方に強く自制を求めたい。

 イランが13日夜(日本時間14日午前)から14日未明にかけ、弾道ミサイルや自爆型無人機で、イスラエルを大規模に攻撃した。

 シリアでイラン大使館が空爆を受け、イラン革命防衛隊の将官や民間人ら計13人が死亡した1日の攻撃に対する報復だと、イラン指導部は主張している。

 イランがイスラエルへの直接攻撃に踏み切ったのは初めてだ。中東最悪の敵対関係にある両国の対立が激化する懸念がある。

 攻撃について、イラン革命防衛隊は「自衛権の行使」だと正当化し、内容は「限定的な作戦だった」と主張した。

 イスラエル軍報道官は、イランから無人機170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発などが発射され、その99%を迎撃したと発表した。

 迎撃でダメージを抑えたということだろうが、落下した破片により、住宅で寝ていた少女1人が負傷した。戦闘がエスカレートすれば、民間人が巻き込まれる危険性はさらに高まる。

 残念なのは、対立が先鋭化する恐れが払拭できないことだ。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、これまで直接攻撃を見送ってきた経緯がある。しかし大使館攻撃には「われわれの領土に対する攻撃」と受け止めて激怒し、報復を国民に繰り返し誓ってきた。

 一方、イスラエル側は、報復を受け「イランの攻撃はレッドライン(越えてはならない一線)を越えた」として、報復する権利を主張している。

 国連のグテレス事務総長が関係国に最大限の自制を求めたものの、安全保障理事会の緊急会合で両国は非難の応酬を続けた。

 双方が報復を正当化しては、連鎖を断ち切ることはできない。

 イスラエルは、パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとの戦闘を始めて半年が過ぎた。

 イランとの間で戦争に発展すれば、二正面の戦闘を強いられるだけでなく、ガザでの戦闘とは次元が違う「国対国」による地域紛争に発展しかねない。中東の緊張が格段に高まるのは明らかだ。

 先進7カ国(G7)首脳は、オンライン会議でイランへの制裁を検討した。イランと代理勢力に攻撃停止を要求した。

 一方で、イスラエルの後ろ盾である米国のバイデン大統領は、ネタニヤフ首相に、イランへの反撃に反対すると伝達したという。

 国際社会は結束し、戦闘の阻止に向けて働きかけを強めてもらいたい。人道的な危機にも直面するガザでの戦闘休止を含め、緊張緩和を急がねばならない。

 

イランが反撃 戦火を広げてはならない(2024年4月16日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 中東全域に戦火が及びかねない状況だ。各国政府、国際社会はあらゆる外交努力を尽くし、事態の悪化を防がなくてはならない。

 イランが無人機や弾道ミサイルイスラエルを攻撃した。中東各国の武装勢力が協力したとみられる。シリアにあるイラン大使館が今月1日に空爆され、革命防衛隊の司令官らが殺害されたことへの反撃だ。

 イランによるイスラエル領内への攻撃は前例がない。イスラエルの戦時内閣は対抗措置を取るという。出方によっては、全面的な軍事衝突に至る恐れがある。

 反撃は大がかりではあったものの、限定的な被害にとどまるよう、周到に策を練った節がうかがえる。実際、無人機とミサイルはほとんどが撃ち落とされ、大きな被害にはつながっていない。

 欧米を含め関係各国は数日前から、攻撃が差し迫っているとして警戒を強めていた。イラン側が何らかのシグナルを送った表れだろう。第1波の攻撃に、到達に時間がかかる無人機を用いたことも迎撃の態勢を取りやすくした。

 イラン政府は「この件は終結した」と述べている。ただし、再び攻撃を受ければ、より厳しい対応を取るとし、米国は近寄ってはならないと警告した。

 イスラエルの後ろ盾である米国も、軍事衝突の激化を避けたい姿勢は共通する。米政府は、対抗措置には加わらないと明言し、イスラエルのネタニヤフ首相にもバイデン大統領が伝えたという。

 気がかりなのは、それでもイスラエルが強硬策に出かねないことだ。そもそも大使館を空爆したときから、イランと事を構える事態になれば、米国はイスラエルの側につかざるを得ないと踏む計算が働いていたように見える。

 バイデン政権はイスラエル自衛権を支持する姿勢を崩さない。それが無謀な軍事行動を許し、中東に戦火を広げる危険を招いている。米政府がもっと強い態度を示さなければ、イスラエルを押しとどめることはできない。

 何より、根幹にあるパレスチナガザ地区への攻撃を止める必要がある。国連の安全保障理事会が先月、即時停戦を決議したにもかかわらず、イスラエル軍の殺りくはやまない。住民が餓死の危機に瀕(ひん)する状況も深刻なままだ。

 あくまでイスラエルを擁護し、安保理常任理事国としての責務を果たそうとしない米政府の姿勢を、各国はより厳しく問わなければならない。日本政府は、米国に同調すべきではない。

 

イラン報復攻撃/公正な姿勢で危機解決を(2024年4月16日『神戸新聞』-「社説」)

 イランがイスラエルに対する大規模攻撃に踏み切った。イスラエル軍報道官によると、無人機170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発などが発射された。多くは迎撃され被害は軽微だったとみられるが、イランがイスラエルを直接攻撃する事態は深刻だ。

 イラン側は在シリア大使館が攻撃されたことへの報復だと主張した。しかし、国際社会が自制を求める中、中東の緊張を高める直接攻撃を強行したことは強い非難に値する。各国が連携を強め、これ以上の攻撃をやめさせねばならない。

 一方で、今回の攻撃では犠牲者が出ず、イラン側が抑制的に振る舞ったことも見てとれる。イラン革命防衛隊トップは「限定的な作戦だった」と表明し、イラン国連代表部も「問題は終結したとみなすことができる」との見解を示した。

 イスラエル側は「国連憲章に違反し、一線を越えた」と強く反発し、報復を検討している。米国が「イランへの攻撃には加わらない」とけん制しても強硬姿勢を崩さない。イラン側も再び攻撃されれば「大きな反撃に出る」と明言する。

 「自衛権」を盾に報復が繰り返されれば事態はエスカレートし両国間の紛争につながりかねない。イラン側が抑制的な姿勢を見せる間に、何としても攻撃の連鎖を食い止める必要がある。だが、パレスチナ自治区ガザでの人道危機も相まって有効な手を打ち出すのは困難な情勢だ。

 国連安全保障理事会は緊急会合を開き、グテレス事務総長が関係国に自制を呼びかけたが、非難の応酬は収まらなかった。

 先進7カ国(G7)はオンライン形式で首脳会議を開き、イランへの制裁を検討した。複数のメンバー国がイラン革命防衛隊をテロ組織に指定する可能性を示唆したという。

 ただ、今回の攻撃のきっかけとなった大使館空爆国際法や条約に反する行為である。イスラエル側は正式には関与を認めていないが、真相を解明し処断するべきだ。

 イスラエル擁護の姿勢を崩さず、イランには強い制裁を科す「二重基準」を米国など西側諸国が改めない限り、国際社会の足並みをそろえ、平和解決を図ることができない。

 中東情勢の緊迫化はガザの人道危機の長期化が要因だ。イランはレバノンヒズボラやイエメンのフーシ派など親イラン武装組織と連携し、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスを支援してきた。フーシ派は紅海で船舶への襲撃を繰り返し、原油の流通に深刻な影響を与えている。

 

イランとイスラエル 中東の安定へ報復やめよ(2024年4月16日『山陽新聞』-「社説」)

 報復の連鎖を避けるため、関係国には最大限の自制が求められる。

 イランがイスラエルに対し、多数のミサイルなどによる大規模な直接攻撃を行った。今月1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことへの報復だと主張している。イランがイスラエルを直接攻撃したのは初めてだ。

 イスラエル軍によると、ミサイルなどの99%を迎撃。南部の空軍基地で小規模な被害が出たほか、少女1人が負傷したとされる。イスラエルが今後、反撃に踏み切るかどうかが焦点となる。昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザでの戦闘が波及し、中東情勢が緊迫度を増しているのは間違いない。

 だが、紛争の泥沼化は絶対に避けねばならない。両国は軍事行動など緊張を高める行動を控え、地域の安定を回復する努力を尽くすべきだ。

 攻撃に使われたのは、弾道ミサイル巡航ミサイル、自爆型無人機で、イランをはじめイラク、イエメン、レバノンから発射されたとされる。迎撃には米英軍などの協力があったという。

 そもそもイランとイスラエルは中東で最悪の敵対関係にあり、地域を不安定化させる最大要因となっている。イランはイスラエルパレスチナの占領者と位置付けており、国としての生存権を認めていない。中東各地に存在し、イスラエルを攻撃する親イラン武装組織に肩入れしてきた。イスラエルも核開発を拡大するイランを安全保障上の脅威と捉え、対抗してきた。

 今回のイランによる攻撃の直接のきっかけは、在シリアのイラン大使館にイスラエルが行ったとみられる空爆だ。イスラエル軍と交戦している、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを支援する中心人物とされるイラン革命防衛隊の将官らが死亡した。

 イランの最高指導者ハメネイ師は大使館攻撃を「われわれの領土に対する攻撃」として激怒。報復を国民に繰り返し誓っており、自身のメンツを保つことを優先して直接攻撃に踏み切った。ただ、イスラエルの後ろ盾である米国の大規模な軍事介入を避けたい意向から、抑制的な攻撃だったとみられる。

 強く懸念されるのは、報復の応酬で紛争が拡大し、戦争へと発展することだ。

 イランによる攻撃を受けて国連安全保障理事会が開いた緊急会合では、イスラエルは「報復する権利がある」と主張したのに対し、イランは「自衛権の行使だ」と攻撃を正当化するなど非難の応酬が続いた。一方、イスラエルの戦時内閣の協議では、時期や標的、方法について意見が割れて結論には至らなかったものの、イランへの反撃に支持が集まったようだ。

 対立の先鋭化は避けられない状況とも言え、情勢は予断を許さない。事態の沈静化に向け、国際社会からの働きかけを強めねばならない。

 

イランのイスラエル攻撃 報復の連鎖食い止めよ(2024年4月16日『中国新聞』-「社説」)

 イランが日本時間のおととい、イスラエルに向けて大量の弾道ミサイルや自爆型無人機などを発射した。イランが直接イスラエルを攻撃するのは初めてとなる。両国は中東の軍事大国である。中東でこれ以上、戦火が広がる事態は何としても食い止めなければならない。

 イランは在シリア大使館が攻撃を受けたことへの報復と主張している。ミサイルや無人機のほとんどはイスラエル軍などによって撃墜された。民間人に負傷者が出たが、死者は確認されなかった。

 今回の攻撃は、パレスチナ自治区ガザで続くイスラエルイスラム組織ハマスの戦闘が波及した形だ。イランはハマスを支援している。

 イラン大使館への空爆では、親イラン組織ヒズボラを支援する中心人物らが死亡した。ヒズボライスラエル北部を攻撃していた。イスラエル空爆への関与を否定も肯定もしていないが、関与は極めて濃厚だ。

 イランは同じイスラム教徒であるパレスチナ人を抑圧するイスラエルを宿敵と位置付けてきた。直接戦火を交えなかったのは、中東ならではのバランス感覚で、制御不能に陥る事態を回避するためだったと言える。

 だが大使館への攻撃は一線を越えた。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランの最高指導者ハメネイ師は「われわれの領土に対する攻撃」と受け止め、報復は不可避だったとみられる。

 ミサイルが到達する前にイランが攻撃の開始を発表したことには、国のメンツを保ちながら被害を最小限に抑え、事態を収束させたいという思いがにじむ。イスラエルのイランへの反撃に対し、米国が不参加をいち早く表明したのは、イランの意図を理解したからだろう。イスラエルは過剰に反応するべきではない。

 国連安全保障理事会は、イスラエルの要請を受けて緊急会合を開催した。先進7カ国(G7)もオンラインで首脳会議を開き、イランへの制裁を検討した。議長国イタリアは「最も強い言葉で非難する」と首脳声明を発表した。

 大量の兵器を動員したイランの一斉攻撃は許されない。しかし、引き金となった大使館攻撃の真相とイスラエルの責任を追及せず、イランへの非難一辺倒で果たして報復の連鎖の拡大を防げるのか。

 イスラエルハマスとの戦闘を続ける方針を示し、ガザ最南部ラファへ侵攻する準備を進めている。民間人の被害がさらに増える恐れがある。

 国際社会は連携し、イスラエルとイランの双方に自制を強く求めなければならない。中東地域を巻き込んだ戦争に発展しないよう事態の沈静化を図った上で、ガザの人道危機を回避するための停戦を実現させる必要がある。

 日本は国連とG7の枠組みを重視しながらも、産油国であるイランと長年にわたって友好的な関係を維持してきた。中東諸国の信頼も厚い。欧米に同調するだけでなく、独自に培ってきた関係を生かした外交に期待したい。

 

【イランが報復】負の連鎖を食い止めよ(2024年4月16日『高知新聞』-「社説」)

  
 報復の連鎖を断ち切らなければならない。中東情勢は緊迫の度合いを増している。偶発的な衝突が混乱を拡大しかねない。関係国の冷静な対応が求められる。
 イランはイスラエル弾道ミサイルや自爆型無人機で大規模に攻撃した。イランがイスラエルに直接攻撃したのは初めてだ。在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことへの報復だと主張している。
 攻撃に対し、イスラエル軍はミサイルや無人機の99%を迎撃したとする。空軍基地が小規模な被害を受けたほか、1人が負傷した。
 イランはイスラエルパレスチナの占領者として存在を否定してきた。イランは公館空爆を受けて、最高指導者ハメネイ師が報復を宣言していた。保守強硬派の要求も無視できなかったはずだ。
 攻撃には周辺の親イラン武装組織が加わっていたとの分析がある。イスラエルへの攻撃を強める可能性があり、戦闘が中東地域に拡大しかねない。警戒が不可欠だ。
 今後はイスラエルが反撃に踏み切るかが焦点となる。イランは対立の先鋭化を避けたいのが本音との見方がある。イラン革命防衛隊のサラミ司令官は報復を限定的な作戦と位置付け、抑制的だったとの認識を示した。ライシ大統領はイスラエルに教訓を与えたとし、無謀な振る舞いに断固対応すると声明を発表した。
 全面衝突に発展することへの危惧がうかがえる。イスラエルと直接戦火を交えれば米国の参戦を招き、体制が影響を受けかねない。米国が軍事行動を起こした場合は相応の対応をとるとする警告は、イスラエルを抑え込ませたい思惑がにじむ。
 一方、イスラエルは核開発を進めるイランを安全保障上の脅威と捉える。レバノン民兵組織ヒズボラが越境攻撃に使う武器は、イランがシリア経由で提供しているとみる。シリアのイラン公館への直接攻撃に踏み切り、パレスチナ自治区ガザではイランが後ろ盾のイスラム組織ハマスの掃討を続けている。
 ガザでは3万3千人以上が犠牲となり、餓死者が出るほど人道危機は深刻になっている。戦闘休止と人質解放を巡る交渉は進展せず、イスラエルはガザ最南部ラファに地上侵攻する構えを崩していない。
 国連安全保障理事会は緊急会合を開いた。イスラエルは報復の権利を主張し、イランは自衛権の行使だと正当化した。ともに軟化の気配はない。グテレス国連事務総長は関係国に自制を求めた。
 米国にしても紛争拡大は避けたい思いは強い。バイデン米大統領イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、地域紛争に発展すれば壊滅的な結果をもたらすとして、イランへの反撃に反対すると伝達した。
 バイデン氏にとって、中東地域の安定は大統領再選戦略に影響する。ネタニヤフ氏に対していかに圧力を強めるかが注視される。
 被害のさらなる拡大を食い止めなければならない。国際社会は連携した取り組みを強める必要がある。

 

イラン、イスラエル報復 日本は連鎖阻止に全力を(2024年4月16日『琉球新報』-「社説」

 イランがイスラエル弾道ミサイル無人機で大規模攻撃を行った。シリアのイラン大使館がイスラエルに攻撃された報復だとした。イランがイスラエルに直接攻撃をしたのは初めてだ。

 パレスチナ自治区ガザの戦火が拡大しかねず、中東情勢は緊迫の度を増している。報復の連鎖を何としても食い止めなければならない。日本政府は、中立の立場でエスカレーション阻止に全力を挙げるべきだ。
 日本時間の15日に行われた国連安全保障理事会の緊急会合で、グテレス国連事務総長が関係国に最大限の自制を求めた。しかし、イランは「自衛権の行使」だと攻撃を正当化し、イスラエルは「報復する権利」があると主張、非難の応酬が続いた。
 日本も含む先進7カ国(G7)はオンライン形式で首脳会議を開き、イスラエルへの「全面的な連帯と支持」を表明した。米国は2兆円を超えるイスラエル支援緊急予算を承認しようとしている。一方への肩入れは緊張をより高めることになりかねない。日本はもっと慎重になるべきだ。
 イランとイスラエルの敵対の根源にはパレスチナ問題がある。イスラム教の聖地でもあるエルサレムを占領しているイスラエルを、イランは国家として認めていない。そしてイスラエルに武力攻撃を仕掛けているパレスチナ自治区ハマスイスラム聖戦、シリアのヒズボラ、イエメンのフーシ派を支援しているとされる。中東に駐留する米軍との間でも、攻撃と報復が繰り返されてきた。
 イランは、事実上の核保有イスラエルに対抗するため核開発を進めていた。2015年、核開発をやめる見返りに経済制裁を解除するイラン核合意が米オバマ大統領の主導で結ばれた。イスラエルの反対を振り切り、米英仏独中ロ6カ国が合意に参加した。
 しかし、親イスラエルの米トランプ大統領が18年、一方的に合意から離脱し、合意は機能不全に陥った。イランの核科学者の暗殺事件や核施設の破壊などがあり、イスラエルの関与が疑われている。
 長年続くイランとイスラエルの攻撃と報復の応酬には、歴史や宗教、国際関係、国内事情など、複雑な背景があり、どちらが悪いとは言いがたい。しかし、人の血が流れる事態を続けてはならない。武力行使を停止した上で、時間をかけて根源にあるパレスチナ問題を解決することを考えるしかないのではないか。
 1993年にオスロ合意という解決策があった。2002年にはアラブ連盟による包括和平案があった。核合意も復活させるべきだ。これらを土台に、当事者だけでなく、国連総会など広い国際的枠組みの中で、知恵を出し合うことはできないだろうか。
 日本は歴史的に中立的な立ち位置にいる。米国と距離を置いて、国際社会の先頭に立つべきではないか。