イスラエルの報復(中東情勢)に関する社説・コラム(2024年4月20日)

イスラエルの報復 中東の戦火拡大懸念する(2024年4月20日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
イスラエルのネタニヤフ首相=エルサレムで3月17日、AP
 
 懸念されていた事態が起きてしまった。国際社会は、中東の軍事大国同士の報復合戦を止めなければならない。
 イラン空軍の基地を擁する中部イスファハン近郊が攻撃を受けた。先に同国から大規模攻撃されたイスラエル無人機で反撃したとみられる。
 イランは「反撃された場合はやり返す」と主張していた。だが、報復の応酬は全面戦争のリスクを高める。
 そもそも自衛目的などを除き、国家による武力行使国際法違反だ。さらなる攻撃は思いとどまるべきだ。
 イスラエルは事実上の核保有国で、イランも核開発を進めている。イラン革命防衛隊幹部は万が一、核施設が標的になれば、「平和利用」と主張してきた核開発の目的を変更する可能性を示唆した。
 イランが核兵器保有した場合、サウジアラビアなどを巻き込んだ「核武装ドミノ」が中東で起きかねない。
 発端は今月初め、シリア国内のイラン大使館施設が空爆されたことだ。イスラエルに報復攻撃を加えたイランを、主要7カ国(G7)首脳は「最も強い言葉」で非難した。米英両政府は革命防衛隊の関係者を制裁対象に追加した。
 一方、イスラエルに対し、G7は自制を求めていた。英独外相はエルサレムを訪問し、ネタニヤフ首相に「事態の悪化は誰の利益にもならない」と報復を思いとどまるよう求めた。
 首相は自制要求に耳を貸さず、「独自に決定する」と反撃する構えを示していた。G7がイスラエル非難を避け続けていては、新興・途上国などから「二重基準だ」との批判が強まるのは必至だ。
 ロシアによるウクライナ侵攻で、米欧と露中の分断が深まり、国連安全保障理事会は機能不全に陥っている。
 中東は原油天然ガスが豊富で、混乱による世界経済への影響は計り知れない。日本は原油の9割以上を中東に頼っている。
 世界の安定に責任を持つ大国は、紛争の拡大に歯止めをかける必要がある。米国がイスラエルに対し影響力を行使するとともに、露中はイランが反撃を控えるよう働きかけるべきだ。
 
中東情勢 報復の応酬を拡大させるな(2024年4月20日『読売新聞』-「社説」)
 
 地域の大国であるイスラエルとイランの軍事衝突が激化すれば、中東全体に戦火が広がり、国際社会は大混乱に陥ってしまう。関係国は事態収拾に力を費やすべきだ。
 イスラエルが、イラン中部イスファハンなどにミサイル攻撃を行ったという。現場近くのイラン空軍基地などを狙った可能性がある。イスラエルは攻撃を認めていないが、米ABCテレビなどが、米当局者の話として報じた。
 詳細は不明だが、イラン北西部タブリーズなどでも爆発音が聞こえたとされる。攻撃を警戒してか、イラン当局は首都テヘランなど多くの空港で一時、航空便の運航を中止した。イラン国内で死傷者は出ていない模様だ。
 両国の軍事衝突は、今月1日にシリアにあるイランの大使館施設が空爆されたことが発端だ。イスラエルは関与を認めていないが、イランは報復として今月13、14日にイスラエル無人機やミサイルによる大規模攻撃を行った。
 ただ、イランの攻撃は人口密集地を避けるなど抑制的だったため、米欧などはイスラエルに対し、報復攻撃を自制するよう働きかけていた。しかし、そうした忠告は聞き入れられなかった。
 報復の連鎖はどの国の利益にもならない。互いにこれ以上、攻撃を続けることは許されない。
 1979年のイラン革命以降、両国は対立関係にある。イランは親イランの武装勢力を通じてイスラエルに攻撃を仕掛けてきた。
 今回の衝突がこれまでと異なるのは、両国が互いの領土を直接攻撃し合ったことである。このまま衝突がエスカレートすれば、制御不能に陥る恐れがある。
 最も懸念されているのは、イスラエルがイランの核関連施設を攻撃することだ。イラン側は、核施設が狙われた場合、全面的な反撃に出るとけん制しており、緊張は高まる一方だ。
 米中など6か国は2015年、イランが核開発を制限する見返りとして、経済制裁を緩和することで合意した。イランを多国間の枠組みに取り込んだこの合意は、中東の緊張の高まりを抑える役割を果たしていた。
 だがトランプ米政権が18年、一方的に合意から離脱したことで、イランは原子力発電用燃料の水準を超える高濃縮ウランの製造に踏み切ったとされ、国際社会の疑念を招いている。
 当面の衝突を沈静化させると同時に、もう一度多国間の枠組みを作ることを検討すべきだ。
 
イランとイスラエルの応酬を憂慮する(2024年4月20日『日本経済新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
イランはイスラエルと長く敵対している(19日、テヘラン市内)=WANA提供・ロイター
 
 イスラエルが19日、イランに反撃したと報じられた。イランは在シリアの自国大使館周辺が空爆された報復として、13日にイスラエルをミサイルやドローン(無人機)で攻撃していた。私たちは双方に自制を重ねて求めてきた。武力攻撃の応酬を憂慮する。
 被害の詳細は明らかではない。両国は直ちに公式声明を出さず、イラン国営メディアの報道ぶりは抑制的だ。イランによる13日の攻撃でイスラエル側に死者はなく、反撃もこれに見合う規模にとどめた可能性がある。報復の応酬に幕を引くときである。
 爆発音が聞こえたと伝えられたイラン中部イスファハン州には、イランの核開発関連施設がある。イスラエルはイランの核武装を警戒し、かねて同州にあるウラン濃縮施設にサイバー攻撃や破壊工作を仕掛けてきた疑いがある。
 仮に核施設が軍事攻撃を受ければ、イランが再び対抗措置を取る可能性があり、報復合戦が続きかねない。攻撃の応酬がやまない限り、偶発的な衝突のリスクは高まる。地域大国の両国が全面的に衝突し、大規模な紛争に至ることは防がねばならない。
 中東の緊張に19日には市場でも動揺が広がった。一時、原油先物価格が急上昇し、日経平均株価は急落した。不確実性は世界経済の重荷になる。
 イスラエルのネタニヤフ政権はイランに対抗措置をとる姿勢を示してきた。そのイスラエルに米欧などは思いとどまるよう重ねて促し、過剰な報復は友好国の支持を失いかねないと圧力をかけた。
 これは一定の効果があったようだ。国際社会のこうした努力は重要であり、一致して双方に事態の鎮静化を求め続けるべきだ。
 国際社会が説得力を高めるには公正さが必要である。主要7カ国(G7)首脳はイスラエルを攻撃したイランに対し、攻撃から間もないタイミングで非難した。
 イスラエルによるイランへの攻撃も同じように厳しく批判し、事態の悪化を防ぐ姿勢が重要だ。イランと伝統的に友好関係にある日本は独自外交の余地がある。
 イスラエルとイランが緊張緩和に向かうかは見通せないが、禍根は確実に残る。両国は長く敵対しながら互いに直接攻撃は慎重に避けてきた。しかし今回、暗黙の了解は崩れ、相手の領土にじかに攻撃する前例をつくってしまった。その危うさを直視すべきだ。