子の性被害防止へ議論尽くせ(2024年4月20日『日本経済新聞』-「社説」)

 
 

 


「社会全体で子どもを性暴力から守る意識を高めていく観点からも重要な法案だ」とする加藤鮎子こども政策相

 政府は「こども性暴力防止法案」を国会に提出した。子どもに接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認し、犯罪歴があれば、就労を事実上制限する新たな制度の導入を柱としている。

 子どもへの性暴力は支配的な立場を利用することが多く、周囲の目も届きにくい。子どもの心身への影響は重大であり、新たな仕組みは防止の一助になる。初犯防止策を含め、子どもを守るために、どう適切に運用するか、国会でしっかり議論してほしい。

 新制度は日本版DBSと呼ばれ、英国の制度をもとに考案した。こども家庭庁のシステムを通じ、幼稚園や保育所、小中高校などに、職員の性犯罪歴の確認を義務付ける。塾や放課後児童クラブなどは任意だが、体制を整えれば国の認定を受けられる。

 犯罪歴があれば、雇用する側は子どもと接する業務に就かせないといった防止措置を講じる必要がある。配置転換が難しければ解雇も容認されうるという。対象は、不同意わいせつ罪などの刑法犯や痴漢や盗撮などの条例違反だ。

 「犯罪歴あり」とされる期間は拘禁刑なら刑を終えてから20年とした。刑法は刑を終えて10年で「刑は消滅」としており、それより長い。被害防止と更生支援の両立に向け、政府は丁寧に説明してほしい。再犯防止のためのプログラムの充実なども欠かせない。

 性犯罪は9割が初犯とされる。法案は前科がなくとも性暴力の「おそれ」があると認められれば、雇用側に同様の防止措置を義務付けた。どんな基準でどう判断するのか。あいまいな運用基準で乱用が起きぬよう、国会で詰めてほしい。情報の流出などを起こさないことも必須だ。

 法案は初犯防止のため、職場での研修や子どもとの面談、相談体制の整備なども盛り込んだ。密室にしない工夫も急務となる。

 子どもは被害を受けても声を上げにくいことがある。まして、ことなかれ主義でうやむやにするようなことがあってはならない。