性犯罪歴の確認 子ども守る議論冷静に(2024年4月18日『北海道新聞』-「社説」)

 こども性暴力防止法案が国会に提出された。英国の制度にならい、日本版DBSと呼ばれる。
 学校や保育所が就労希望者や従業員の性犯罪歴を確認し、犯歴があれば子どもと接する仕事に就けないよう制限するのが柱だ。
 教育関係者による子どもへの性加害は後を絶たない。子どもは声を上げにくく、被害が隠れている可能性がある。心の傷は大人になっても残る。対策強化は急務だ。
 子どもを守る目的に異論はないが法案には問題も多い。犯歴のある人に加え、性加害の恐れがあるとみなされた人の就業も事実上制限するのは行き過ぎではないか。
 憲法が保障する人権や「職業選択の自由」を侵しかねない。国会は冷静に議論を深めてほしい。
 行政が所管する学校や保育所で犯歴の確認が義務化される。認可外保育所や学習塾なども任意で制度を利用でき、犯歴確認を済ませれば広告で示すことができる。
 雇用主側は犯歴確認をこども家庭庁に申請し、同庁は法相に照会する。犯歴があっても本人が就業を辞退しなければ、犯歴を記載した書面が雇用主側に交付される。
 問題は、政府が性犯罪の9割を占める初犯を防ぐためとして、犯歴がなくても性加害の「おそれがあると認める時」は雇用主側に配置転換などを義務付けたことだ。
 具体的な判断基準はまだ示されていない。条文の恣意(しい)的な解釈や乱用が懸念される。
 政府は法案成立後に判断基準のガイドラインを示すというが、人権に関わる重要事項だ。国会で十分審議を尽くすべきで、政府は早急に基準案を示す必要がある。
 犯歴を何年前までさかのぼり照会できるようにするかも論点だ。
 刑法には刑を終えて10年が経過すれば刑が消滅する規定がある。更生の機会を確保するためだ。
 これを踏まえ、こども家庭庁は当初、照会期間を刑を終えてから10年とする考えだった。
 だが与党にさらに延ばすべきだとの意見が強く、拘禁刑は20年、罰金刑以下は10年となった。
 性犯罪の再犯者の多くが前回犯罪の有罪確定から20年に収まっている―との調査結果に基づいたという。だが犯罪者の立ち直りを主眼とする現行の刑事政策にそぐわないと指摘する専門家もいる。
 むしろ初犯を防ぐ観点からは職場での研修拡充や、子どもが相談しやすい体制整備が重要だろう。
 加害者にどのような医療的な措置を講じるべきかといった多角的な考察も必要になる。