日本版DBS 子ども性被害根絶目指せ(2024年3月25日『新潟日報』-「社説」)

 後を絶たない子どもの性被害を根絶する一歩としたい。一方で制度の乱用を防ぎ、職業選択の自由や働く人の権利が保護されるように、国は明確な運用基準を早急に策定することが求められる。

 政府は、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」制度の創設法案を閣議決定し、国会に提出した。

 性犯罪歴の確認を学校や保育所、幼稚園などに義務付ける。

 性犯罪歴がある人は刑の終了から最長20年、罰金刑以下は10年、採用されないなど、就業を制限される。盗撮や痴漢といった条例違反も含まれる。

 公的な監督の仕組みがない学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなどは任意の「認定制」とし、国の認定を受けて同様の義務を負うことになる。

 認定された事業者は広告表示が可能となる。安心して子どもを預けられるように、多くの事業者が、認定を受けることが望まれる。

 こども家庭庁がDBSの情報照会システムを構築し、就労希望者について雇用主側が確認を申請する。性犯罪歴があった場合は、同庁が本人に事前に知らせる。内定を辞退すれば、雇用主側に「犯罪事実確認書」を交付しない。

 就労希望者だけでなく、既に働いている現職者も対象になる。

 性犯罪歴が確認されれば、雇用主側は子どもと接する業務から配置転換するなどの安全措置を取らねばならない。難しい場合は、最終手段として解雇も許容される。

 現在の法制度では、性犯罪歴のある人でも転職すれば子どもに関わる仕事に就くことが可能で、子どもが被害を受けやすい状況だ。制度の効果を期待したい。

 気がかりなのは、性犯罪歴のない人でも、子どもの訴えなどから雇用主側が「加害の恐れがある」と判断すれば、配置転換などの措置を講じられることだ。

 前科の照会だけでは、性犯罪全体の約9割を占める初犯を防げないためだが、何が「加害の恐れ」に当たるのかが明確ではない。

 恣意(しい)的に運用されることも考えられる。乱用を防ぐために、詳細な基準が求められることは言うまでもない。

 政府は、具体的にどのようなケースが性加害の恐れに該当するのかガイドラインを策定する。

 制度は法成立後、周知期間を経て2026年ごろに運用を始める見通しという。現場が混乱しないよう、ガイドラインをできるだけ早期に示してもらいたい。

 法案には、性暴力の予防に向けた職員研修や、リスクを早く把握するための子どもとの相談体制整備も盛り込んだ。

 子どもへの性暴力は、生涯にわたり被害者の心身に回復しがたい深い傷を残す重い罪である。子どもと関わる事業者や就労者は、改めて肝に銘じてほしい。