子どもと接する職業に就こうとする人の性犯罪歴の有無を確認できるようにする「こども性暴力防止法案」が国会に提出された。
多発する性被害から子どもを守る効果が期待されるが、犯歴という重大なプライバシーに基づく就労制限も可能になる。情報管理や運用に疑念が残らぬよう、国会では徹底審議を求めたい。
英国の「DBS」(前歴開示・前歴者就業制限機構)にちなみ、日本版DBS法案と呼ばれる。政府は成立後、準備期間を経て2026年ごろの開始を目指す。
雇用主側がこども家庭庁の情報照会システムを使って就職予定者の性犯罪歴を照会。犯歴があれば同庁が本人に事前に告知し、就職内定を辞退しない場合は、雇用主側に「犯罪事実確認書」を交付する仕組みだ。
ただ法案化に当たり、犯歴をどこまでさかのぼるか、憲法が保障する職業選択の自由を侵さないかなど多くの問題が指摘された。
犯歴の照会期間について、法案は拘禁刑(懲役刑と禁錮刑を25年に一本化)は刑の終了から20年、罰金刑以下なら10年とし、不同意わいせつ罪などの刑法犯だけでなく、痴漢や盗撮など自治体の条例違反も照会対象に含めた。
政府は当初、拘禁刑の照会期間を10年と想定していたが、与党の一部から反発が出たため、20年とした。性犯罪再犯者の9割が、前回犯罪の有罪確定から20年以内に再び罪を犯しているためという。
対象職種を巡り、法案は学校や認可保育所には確認を義務づけ、学習塾や学童クラブ、スポーツクラブは任意としている。
子どもにかかわる全業種の就労希望者に犯歴確認を義務付けるよう求める声はあるが、性犯罪全体の9割を占める初犯は、犯歴照会では確認できない。
法案は性犯罪歴がなくても、子どもの訴えなどで「性加害の恐れがある」と判断されれば配置転換ができ、解雇も認めるとするが、誰がどう判断するのか。偏見につながることはないのか。
犯歴照会は一定の効果が見込めても万能でない。刑務所で行われる加害者更生のための治療プログラムを拡充するなどあらゆる方策を組み合わせることが必要だ。
子どもを性犯罪から守ることに異論はないが、就業制限という重い措置を伴う以上、運用に万全を期すべきは当然である。