「日本版DBS」の導入 子ども守る議論深めたい(2024年4月9日『毎日新聞』-「社説」)

「日本版DBS」の対象に、塾やスポーツクラブも含めるよう求める署名を受け取る小倉将信こども政策担当相(当時、左から2人目)=東京都千代田区で2023年9月1日午後0時34分、小鍜冶孝志撮影

「日本版DBS」の対象に、塾やスポーツクラブも含めるよう求める署名を受け取る小倉将信こども政策担当相(当時、左から2人目)=東京都千代田区で2023年9月1日午後0時34分、小鍜冶孝志撮影

 子どもたちを性被害から守る手立てについて、議論を深める必要がある。

 「こども性暴力防止法案」が国会に提出された。英国を参考にした新制度の導入が柱だ。

 学校や幼稚園、認可保育所などの設置者に、教員や保育士らの性犯罪歴の確認を義務づける。犯歴があれば、子どもと接する仕事に就かせることはできない。「日本版DBS」と呼ばれる。

 学童保育や学習塾、スポーツクラブなども、国に申請して認定を受ければ対象となる。活用を促すため、認定事業者であることを広告に表示できるようにする。

 教員や保育士、ベビーシッターが性暴力を繰り返すケースが問題になっていた。こうした事態を防ぐ狙いがある。

 子どもと直接関わらない業務への配置転換が難しければ、解雇もあり得る。犯歴がある人の就業を事実上、制限する仕組みだ。

 「犯歴あり」として扱われる期間は、服役した場合は終了後20年、罰金刑は納付後10年となる。

 しかし、刑法は禁錮刑以上は10年、罰金刑は5年で「刑が消滅する」と規定する。資格制限がなくなり、公務員などに就けるようになる。更生の機会を確保するための措置である。

娘が性被害に遭った母親らも出席して開かれた「日本版DBS」創設を求める記者会見=東京都千代田区で2020年7月14日午後、山内真弓撮影
娘が性被害に遭った母親らも出席して開かれた「日本版DBS」創設を求める記者会見=東京都千代田区で2020年7月14日午後、山内真弓撮影

 憲法が保障する「職業選択の自由」にも関わる。個人の権利保護との整合性について、政府には説明が求められる。

 犯歴情報を得た施設設置者や事業者は、厳重に管理しなければならない。漏えいがあれば、重大な人権侵害につながる。

 検挙された性犯罪の9割は初犯とされる。このため法案では、犯歴がなくても性暴力の「おそれ」があれば、配置転換などを義務づける。どのような場合が該当するのか、明確に示すべきだ。

 現場で被害を迅速に把握できるよう、子どもが相談しやすい体制づくりが欠かせない。被害を認識できないケースも少なくなく、性教育の充実が急務だ。

 教員らへの研修を強化し、性暴力に対する認識を深めることも大切である。

 性暴力は被害者の心に大きな傷を残す。立場の弱い子どもが被害を受けることがないよう、取り組みを進めなければならない。