子どもたちを性被害から守る手立てについて、議論を深める必要がある。
「こども性暴力防止法案」が国会に提出された。英国を参考にした新制度の導入が柱だ。
学校や幼稚園、認可保育所などの設置者に、教員や保育士らの性犯罪歴の確認を義務づける。犯歴があれば、子どもと接する仕事に就かせることはできない。「日本版DBS」と呼ばれる。
学童保育や学習塾、スポーツクラブなども、国に申請して認定を受ければ対象となる。活用を促すため、認定事業者であることを広告に表示できるようにする。
教員や保育士、ベビーシッターが性暴力を繰り返すケースが問題になっていた。こうした事態を防ぐ狙いがある。
子どもと直接関わらない業務への配置転換が難しければ、解雇もあり得る。犯歴がある人の就業を事実上、制限する仕組みだ。
「犯歴あり」として扱われる期間は、服役した場合は終了後20年、罰金刑は納付後10年となる。
しかし、刑法は禁錮刑以上は10年、罰金刑は5年で「刑が消滅する」と規定する。資格制限がなくなり、公務員などに就けるようになる。更生の機会を確保するための措置である。
憲法が保障する「職業選択の自由」にも関わる。個人の権利保護との整合性について、政府には説明が求められる。
犯歴情報を得た施設設置者や事業者は、厳重に管理しなければならない。漏えいがあれば、重大な人権侵害につながる。
検挙された性犯罪の9割は初犯とされる。このため法案では、犯歴がなくても性暴力の「おそれ」があれば、配置転換などを義務づける。どのような場合が該当するのか、明確に示すべきだ。
現場で被害を迅速に把握できるよう、子どもが相談しやすい体制づくりが欠かせない。被害を認識できないケースも少なくなく、性教育の充実が急務だ。
教員らへの研修を強化し、性暴力に対する認識を深めることも大切である。
性暴力は被害者の心に大きな傷を残す。立場の弱い子どもが被害を受けることがないよう、取り組みを進めなければならない。