【円安加速】地方企業の芽を摘むな(2024年3月28日『福島民報』-「論説」)

 27日の外国為替市場で円相場は対ドルで下落し、約34年ぶりの円安水準を付けた。日銀は先週、マイナス金利政策を解除したものの、日米間の金利差縮小は依然、見通せない。円が売られる環境は原材料や燃料価格の一層の上昇を招き、経営環境の悪化が懸念される。地方の中小企業の体力がそがれ、成長の芽が摘まれかねない。官民一体で価格転嫁実現など各種対策を長期的視点から進めるべきだ。

 日銀の植田和男総裁はマイナス金利政策の解除を発表した19日の記者会見で、「当面、緩和的な金融環境が継続する」と冒頭から強調した。「激変緩和」を前面に打ち出し、追加利上げへの言及を避けた。一方、米連邦準備制度理事会FRB)は利下げに腰を上げる状況には至っていないと伝わる。こうした国際情勢が円高への流れを押しとどめているもようだ。

 日本政府内には「円安解消につながる」と、日銀の政策転換を歓迎する声があったが、今のところ思惑は大きく外れた格好となっている。市場には政府による為替介入への警戒感が広がる可能性があるが、あくまで対症療法でしかない。

 円安は輸出企業に有利に働き、訪日客の増加で地方活性化に弾みがつく利点もある。しかし、輸入食料関連価格の続騰を抑えなければ、個人消費はさらに冷え込み、景気の腰折れを招く。

 内閣府の「社会意識に関する世論調査」で、日本が悪い方向に向かっている分野を聞いたところ、「物価」が最多の69・4%(複数回答)に達した。原材料と燃料価格高騰が続く中、県などが昨年末から実施した企業調査では、「全く価格転嫁をできていない」の回答が約2割に上った。円安の長期化もにらみ、価格転嫁の実現に向けた官民の強力な後押しが求められている。

 県内では27日、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の進む浜通りで、先端技術を有する医療系製造業者の破綻が伝わった。2014(平成26)年に設立され、復興の担い手と言うべきベンチャーの進路が絶たれた事態は残念でならない。政府、日銀、経済団体は地方経済に着眼し、産業育成にも配慮しながら、健全な為替環境をあらためて検討する時期にある。(菅野龍太)