参加国のパビリオンを建設する契約が遅れていることが分かり、万博への不安や不満が広がったのは昨年夏のことだ。会場整備費は膨らみ、開催中止や延期を求める意見もまだくすぶっている。

 東京五輪の不祥事に続き、大阪・関西万博が失敗すれば、国際的な大型イベントを日本で開催する機運は急速にしぼむだろう。政府、日本国際博覧会協会、大阪府・市は一層の緊張感をもって臨まねばならない。

 パビリオンは「万博の華」といわれるが、各国が自前で建てる海外パビリオンの出展国数について、大阪府の吉村洋文知事は、40前後になるという見方を示した。当初予定していた約60カ国から7割程度に減ることになる。万博協会は会場を取り囲む巨大な木造屋根「リング」ができる10月末までに大型の建設工事を終えたいとしている。準備が開幕に間に合わなければ、来場者を失望させ、出足からつまずきかねない。

 会場整備費は最大2350億円とされ、開催が決まった2018年の1.9倍に膨らんだ。資材や人件費の上昇は続いており、もし、博覧会の費用を企業の資金拠出や入場料などで賄えない事態になれば、閉幕後は赤字の穴埋めが必要になる。

 19世紀から万博を10回以上開いてきた米国は、1984年のニューオーリンズ万博が大赤字になったのを最後に、開催から遠ざかった。米国内で万博を敬遠する雰囲気が広がったからだ。大阪・関西万博が赤字に陥れば、日本でも同じことが起きかねない。

 大阪・関西万博への期待が広がらないのは、準備の遅れや経費ばかりが焦点になっているからだろう。ネットとデジタルの時代にあえて博覧会を開き、各国の技術、産業、文化に直接触れることの意義をあらためて考える時期だ。

 万博協会や政府は「いのち輝く未来社会」というテーマが具体的にどう表現されるのか、もっと分かりやすく発信する必要がある。万博の使命は次世代に希望をつなぐことだ。子供や若者の来場を促し安全に見学できる環境をつくる知恵を絞り続けてほしい。

 170年を超える万博の歩みには負の遺産もある。20世紀初めのセントルイス万博(米国)では、植民地の先住民が展示物のように扱われた。当時の差別的な風潮を反映したこの試みは帝国主義国家の過ちとされる。

 一つの展示によって歴史に刻まれたのは、欧州に戦雲が垂れ込める37年に開かれたパリ万博だ。ピカソが傑作「ゲルニカ」を出品し、無差別爆撃の非道を訴えた。

 21世紀の万博は地球温暖化、自然との共生、エネルギー、水資源などをテーマに掲げ、課題解決につながる科学技術や芸術を発信してきた。

 ウクライナの戦乱はやまず、イスラエルによるガザ攻撃は深刻な人道危機を引き起こしている。国内でも能登半島地震の被災者がつらい日々を送っている。世界の分断が深まる中で開かれる大阪・関西万博は、生命を尊び平和を希求する博覧会のはずだ。未来を見据えた技術や多様性を重んじる文化が、過酷な現実を変革する道を照らし出す祝祭になることを期待したい。