マイナス金利解除時に1人の日銀委員が示した懸念 中小企業に賃上げは広がるのか… 3月会合要旨公表(2024年5月2日『東京新聞』)

 
 日銀は2日、マイナス金利政策の解除など大規模金融緩和の見直しを決めた3月18、19日の金融政策決定会合の議事要旨を公表した。大企業を中心に春闘で賃上げ率が好調だったことが見直しに踏み切った大きな判断材料となったが、雇用の7割を占める中小企業の賃上げについて委員の1人が中小の賃上げ余力について「連合の集計結果だけでは十分に確認できない」と慎重な見解を示していたことが分かった。
金融政策決定会合の議事要旨を公表した日銀

金融政策決定会合の議事要旨を公表した日銀

 議事要旨によると、中小の賃上げの動きについて「中小企業を含め、幅広い企業で賃上げの動きが続いている」との楽観的な見方を大方の委員で共有した。中小の賃上げ率は大企業の動向を見極めて決定するといった意見や、大企業の高水準の賃上げを受けて人材確保の観点から中小企業でも賃上げが期待されるといった声が相次いだ。
 一方で、委員の1人は「人件費上昇の価格転嫁の状況などを確認する必要がある」とくぎを刺す場面もあった。
 採決時には、中村豊明委員が大企業に関係する上場投資信託ETF)の新規購入終了には賛成しつつも、マイナス金利政策は業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まることを確認するまで継続するべきだとして反対した。
 3月会合には植田和男総裁のほか副総裁2人、審議委員6人の計9人が出席。マイナス金利政策をやめ、政策金利にあたる「無担保コールレート翌日物」を0〜0.1%程度とすることを賛成多数で決めた。長期金利を低く抑える長短金利操作の撤廃やETFの新規購入の終了も決めるなど、金融政策正常化を始める歴史的な転換点となった。(山田晃史)

 金融政策決定会合の議事要旨  日銀総裁と2人の副総裁、6人の審議委員の計9人が多数決で金融政策を決める会合の要旨。会合の1~2カ月後に公表される。発言者は「委員」とのみ表記され、匿名となっている。10年後に年2回、半年分をまとめて公表される「議事録」では、会合でのより詳細なやり取りが明らかにされ発言者の実名も記される。