万博まで1年に関する社説・コラム(2024年4月13日)

 

大阪・関西万博まで1年 現実変える道を照らせ(2024年4月13日『茨城新聞佐賀新聞』-「論説」

 大阪・関西万博が1年後に始まる。政府主導で準備は加速してきたが、万博がやって来るのを心待ちにする「わくわく感」が広がる気配はない。

 参加国のパビリオンを建設する契約が遅れていることが分かり、万博への不安や不満が広がったのは昨年夏のことだ。会場整備費は膨らみ、開催中止や延期を求める意見もまだくすぶっている。

 東京五輪の不祥事に続き、大阪・関西万博が失敗すれば、国際的な大型イベントを日本で開催する機運は急速にしぼむだろう。政府、日本国際博覧会協会、大阪府・市は一層の緊張感をもって臨まねばならない。

 パビリオンの建設は参加国の約3分の2と契約にこぎ着けたが、気を緩めるわけにはいかない。万博協会は会場を取り囲む巨大な木造屋根「リング」ができる10月末までに大型の建設工事を終えたいとしており、残る3分の1の国との交渉を急がねばならない。

 建物ができた後は展示やイベントのための内装工事が続く。開幕に間に合わなければ、来場者を失望させ、出足からつまずきかねない。

 会場整備費は最大2350億円とされ、開催が決まった2018年の1・9倍に膨らんだ。資材や人件費の上昇は続いており、もし、博覧会の費用を企業の資金拠出や入場料などで賄えない事態になれば、閉幕後は赤字の穴埋めが必要になる。

 19世紀から万博を10回以上開いてきた米国は、1984年のニューオーリンズ万博が大赤字になったのを最後に、開催から遠ざかった。米国内で万博を敬遠する雰囲気が広がったからだ。大阪・関西万博が赤字に陥れば、日本でも同じことが起きかねない。

 大阪・関西万博への期待が広がらないのは、準備の遅れや経費ばかりが焦点になっているからだろう。ネットとデジタルの時代にあえて博覧会を開き、各国の技術、産業、文化に直接触れることの意味をあらためて考える時期だ。

 万博協会や政府は「いのち輝く未来社会」というテーマが具体的にどう表現されるのか、もっと分かりやすく発信する必要がある。万博の使命は次世代に希望をつなぐことだ。子供や若者の来場を促し、安全に見学できる環境をつくる知恵を絞り続けてほしい。

 170年を超える万博の歩みには負の遺産もある。20世紀初めのセントルイス万博(米国)では、植民地の先住民が展示物のように扱われた。当時の差別的な風潮を反映したこの試みは帝国主義国家の過ちとされる。

 一つの展示によって歴史に刻まれたのは、欧州に戦雲が垂れ込める37年に開かれたパリ万博だ。ピカソが傑作「ゲルニカ」を出品し、無差別爆撃の非道を訴えた。

 21世紀の万博は地球温暖化、自然との共生、エネルギー、水資源などをテーマに掲げ、課題解決につながる科学技術や芸術を発信してきた。

 ウクライナの戦乱はやまず、イスラエルによるガザ攻撃は深刻な人道危機を引き起こしている。国内でも能登半島地震の被災者がつらい日々を送っている。

 世界の分断が深まる中で開かれる大阪・関西万博は、生命を尊び平和を希求する博覧会のはずだ。未来を見据えた技術や、多様性を重んじる文化が、過酷な現実を変革する道を照らし出す祝祭になることを期待したい。(共同通信・永井利治)

 

万博まで1年 開幕の高揚感を生み出せるか(2024年4月13日『読売新聞』-「社説」)

 

 大阪・関西万博は、来年4月13日の開幕まで残り1年となった。にもかかわらず、盛り上がりを欠いたままだ。

 政府や関係機関は、開催に向けて課題を着実に解決し、万博の理念や魅力の発信に力を注がなければならない。

 万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)は、1400万枚の前売り券を販売する計画だが、売り上げは1割に満たない130万枚にとどまっている。

 大阪府大阪市が昨年末に実施した全国調査では、万博に行きたいと答えた人が34%と、前年よりも7ポイント減少した。時間とともにムードが低下しているのは、国民の不信感の表れではないか。

 原因の一つは、費用の膨張にある。昨年公表された政府の試算では会場建設費が当初想定の1・9倍となる2350億円、運営費は4割増の1160億円だった。物価高騰などの影響だという。

 建設費の多くは国と大阪府・市が負担することになっている。運営費は入場料で大半を賄うが、来場者が少なければ、公費で赤字を穴埋めする事態も懸念される。

 経済産業省と万博協会は、予算執行の管理を目的とする新組織をそれぞれ設置した。ここで収支を厳格に監視し、負担増に歯止めをかけなければ、国民の不信感を 払拭ふっしょく することは難しいだろう。

 盛り上がりを欠くもう一つの要因は、展示や催事の内容が十分に伝わっていないことにある。

 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。目玉に乏しいとはいえ、ロボットに囲まれた日常を体験したり、未来の自分の映像に出会えたりできる最先端技術の祭典である。

 未来社会の姿を広く伝えると同時に、世代や関心事に応じて戦略的にアピールすることも重要だ。最近の円安で増えている訪日外国人に、伝統文化や日本食への関心を高めてもらえるよう、積極的に働きかけることも欠かせない。

 建設工事は今後ピークを迎える。自前で海外パビリオンを建設する53か国のうち、17か国はまだ施工業者が決まっていない。

 建設が間に合いそうもない国に対しては、万博協会が用意する簡易なパビリオンに変更するよう、早急に決断を促すべきだ。

 万博会場の建設に業者が集中し、能登半島地震の復興を妨げないかと懸念する声もある。政府は、復興は土木工事、万博は建築工事が中心のため、事業は重複しないとしているが、復興に悪影響が出ないよう目配りしてほしい。

 

岡本太郎は反博?(2024年4月13日『山陰中央新報』-「明窓」)

 
 
岡本太郎さんの代表作「太陽の塔」。2018年から内部が一般公開されている=大阪府吹田市(資料)
岡本太郎さんの代表作「太陽の塔」。2018年から内部が一般公開されている=大阪府吹田市(資料)

 先月訪れた大阪市超高層ビルあべのハルカス」(300メートル)からは、約20キロ離れた「太陽の塔」も小さく見えた。1970年の大阪万博で「ベラボーな神像をぶっ立てた」と記した故岡本太郎さんの構築物

▼「〝こういうもの〟を表現したい、という最初の衝動がある。描きたいという衝動じゃない。〝こういうもの〟を、である」「何べんも何べんも自分に問うてみる。〝そういうもの〟を確かめる」

▼昨年、東京の岡本太郎記念館で開かれた企画展「衝動の爪あと」は、同じような絵が何枚も並んでいた。岡本さんの創造の過程であり、頭の中にある完成形に手が追い付くまで繰り返し描き、再現の精度を高めたという。太陽の塔も、そうした衝動の爪痕なのだろう

▼芸術運動研究者の塚原史さんは著書『人間はなぜ非人間的になれるのか』で、太陽の塔は「首を切断された太陽の像」であり、太陽は集う大群衆に捧(ささ)げる祭りの象徴として供犠(くぎ)に付された、と考察する。根源的な太陽を題材に、高度経済成長で見かけ上は豊かな消費社会の迷路に入り込んだ現代文明への挑戦状ではないか、と

▼岡本さんは秘書でパートナーの敏子さんに「一番の反博(万博反対)は太陽の塔だよ」と話したとか。真偽はさておき、ハルカスから望んだ人工島・夢洲(ゆめしま)では工事が進んでいた。開催の賛否が割れる大阪・関西万博の会場。1年後の4月13日に開幕の予定だ。(衣)

 

大阪万博まで1年(2024年4月13日『しんぶん赤旗』-「主張」)

 

矛盾と破綻明らか 中止決断を
 「大阪・関西万博」の開幕まで1年となりました。昨年11月の「共同」の世論調査で「万博は不要」との回答が69%にのぼったのをはじめ開催に多くの国民が懸念を抱いています。

 日本共産党大阪府委員会は昨年8月、「万博の中止を求める声明」をだしました。(1)パビリオン建設が大きく遅れ、その巻き返しに建設労働者の「残業規制適用除外」など、命と安全をないがしろにした進め方になっている(2)建設費が当初の1・5~2倍となり、インフラ整備など関連事業費もどんどん膨らんでいる(3)開催地の夢洲(ゆめしま)は汚染物質を含む軟弱な埋め立て地でそもそも危険なうえ、1日20万~30万人もの来場者が避難できない恐れがある(4)「夢洲万博」の最大の狙いは「カジノ推進」や関西財界・大企業による巨大開発にある―など大きな問題をはらんでいるからです。

■いのちを脅かす
 維新の大阪府・市政は府民の懸念や批判に耳を傾けず「万博が大きく批判されるが、どんなに批判されても必要と訴え続ける」(吉村洋文府知事・日本維新の会共同代表、3月24日の同党大会)という態度です。

 しかし、大阪・関西万博の矛盾と破綻はいよいよ鮮明です。「いのち輝く」(万博のメインスローガン)どころか、「いのち脅かす」になりかねない事態が次々明らかになっています。

 パビリオンは、参加国が自前で造る予定の五十数カ国のうち現在、12カ国しか着工していません。

 3月28日には万博会場建設現場で、埋め立てられた廃棄物から発生した可燃性ガスの爆発事故が起きました。かねて指摘された危険が現実になっています。

 日本共産党のたつみコータロー府委員会カジノ・万博問題プロジェクトチーム責任者らの聞き取りに、大阪市環境局の担当者は万博用地のどこでも爆発する可能性があると認めました。

 災害時の避難計画はいまだに作成されていません。

 この万博に大阪府内95万人の小中高校生らを参加させる事業についても、教育関係者の批判が高まっています。

 能登半島地震のもと「万博より被災地救援を最優先に」の声は日増しに強まっています。プリツカー賞を受賞した建築家の山本理顕(りけん)さんは、カジノ前提の万博を批判するとともに、夢洲で建設中の「350億円の木造リング」は中止し、その木材を能登に運び避難所や恒久施設の材料にと訴えています(大阪民主新報、3月31日付インタビュー)。

 ロシアの参加は「いのち輝く未来社会のデザイン」に相いれないとした日本政府がイスラエルの参加は容認しているのも重大です。

■「維新政治」転換へ
 「明るい民主大阪府政をつくる会」は3月3日に「万博中止府民大集合」を開き、19日には5万余の署名を提出し経産省などと交渉しました。各団体・地域で、「万博より、暮らし充実」「万博より、被災地支援」などのボードを掲げてSNSや街頭でも対話・署名を推進しています。

 日本共産党は、あらためてきっぱりと「万博中止」を決断することを求めます。府民世論に背き「万博・カジノ」に固執する維新政治の転換へ、世論と運動をさらに高めましょう。