大阪・関西万博まで1年 会場建設・運営準備はどこまで?(2024年4月13日『NHKニュース』)

大阪・関西万博の開幕まで13日であと1年です。

「会場建設」や「運営の準備」に加えて、「全国的な関心をいかに高めるか」も、これからの大きな課題になります。

会場建設、どうなっている?

会場となる大阪・此花区の「夢洲(ゆめしま)」では建設作業が本格化しています。

会場のシンボルとなる大屋根リング。

1周およそ2キロ、高さは最大20メートルで、完成すれば世界最大級となる木造建築物となる予定です。

現在、全体の8割ができあがっていて、ことし9月下旬にはリングとしてつながる予定です。

民間パビリオンは、13の企業やグループが出展する予定で、このうち12については、すでに着工しています。

また、「いのち」をテーマに8人のプロデューサーが手がけるパビリオン「テーマ館」はいずれも工事が始まっています。

「海外パビリオン」は間に合うか?

今回の万博には161の国と地域が参加する予定です。

海外パビリオンについては出展の方法は、以下の3つがあります。

タイプA
参加国が独自のデザインをもとに自前でパビリオンを建設する
タイプB
博覧会協会が建設した建物に単独で入居する
タイプC
博覧会協会が建設した建物に複数の国で入居する

このうち、建設の遅れが指摘されてきたのは「タイプA」です。

博覧会協会によると、10日現在、「タイプA」を選択している国は50か国余りありますが、▽建設会社が決まったのは36か国、▽うち着工したのは14か国です。

残る十数か国は、依然として建設会社が決まっていない状況です。

資材価格の高騰や人手不足に伴う人件費の上昇が背景にあり、各国と建設会社との交渉が難航するケースが相次ぎ、建設の遅れが表面化しました。

政府や博覧会協会は、各国に予算の増額やデザインの簡素化などの対応を求めてきたほか、「タイプX」という、組み立て式の建物を協会が建て、費用を参加国が負担する新たな方式を選択肢として示し、事態の打開を図ってきました。

ただ、準備が遅れる中でも、各国の間ではパビリオンの外観などへのこだわりは強く、実際に「タイプX」への移行を決めたのは3か国にとどまっています。

また、協会が建設する建物に複数の国が入居する「タイプC」に移行した国は4か国となっています。

協会は、準備が遅れている国に対しては、「タイプX」への移行を引き続き提案するなどしていて、開幕までに間に合わせたい考えです。

博覧会協会・石毛博行 事務総長
「まだ建設会社が決まっていない国もあるが、今、まさに最終段階だ。各国は自分たちの事情や予算の制約などを考えながら、現実を直視して決めなければいけない段階に近づきつつある。われわれは各国の予算などをコントロールできないので、そこに寄り添いながらアドバイスをしていく」

チケットは売れている?

博覧会協会は、2300万枚の入場券の販売を目標としていて、このうち1400万枚は前売券として販売する考えです。

前売券の販売は、去年11月末から始まっていて、▽ことし10月6日までに買えば割安に購入できる「超早割一日券」、▽開幕からおよそ3か月の間に1回入場できる「前期券」、▽開幕から2週間の間に1回入場できる「開幕券」などがあります。

協会によると、4月10日の時点で、130万枚余りの前売券が売れたということです。

このうち、およそ123万枚は「超早割一日券」が占めています。

博覧会協会の幹部は、海外の参加国や民間企業などが今後、具体的な展示内容を発表したり、パビリオンの予約が始まったりすれば、前売券の販売が伸びることに期待を示していました。

万博への関心は?

NHKが4月に行った世論調査で、大阪・関西万博に関心があるか尋ねたところ、

▽「とても関心がある」 … 7%
▽「ある程度関心がある」…24%
▽「あまり関心がない」 …35%
▽「まったく関心がない」…27%

でした。

全国的な関心の高まりが課題となっています。

このため博覧会協会は、首都圏をはじめ全国各地で、今後、PR活動を強化していく方針で、協会には万博の意義そのものに加え、パビリオンでの展示内容や開催中に開かれるイベントなどについて丁寧な説明が求められることになりそうです。

会場への交通手段は?

夢洲にある会場には、多い日で1日22万人余りの来場者が見込まれています。

その会場へのアクセスは、▽大阪メトロ中央線で夢洲駅に乗り入れるルートや▽JR桜島駅からシャトルバスに乗り継ぐルートなどが主要なルートとして設定されています。

しかし、シャトルバスは、人手不足の深刻化を背景にバスの運転手確保が課題となっていて、必要とされる180人のうちおよそ100人が不足しているということです。

博覧会協会は、大阪メトロ中央線の混雑を防ぐため、シャトルバスの価格を350円に設定し、バス事業者の採算を確保するため運行費用の一部を負担することにしています。

このほか、▽自転車でも来場できるようサイクルラインを設定するほか、▽船舶を使った水上交通も具体化に向けて調整を進めています。

ボランティアやスタッフは足りる?

博覧会協会は、会場内での来場者の案内や施設の運営をサポートするボランティアを1万人、大阪府大阪市は、主要な駅や空港で案内などを行うボランティアを1万人、募集しています。

協会によりますと、4月5日時点で、あわせて1万5027人の応募があるということです。

募集はいずれも4月末までです。

協会などは「万博での経験は貴重ですばらしいものがあるのでぜひ参加してもらいたい」と呼びかけています。

また、入退場ゲートでの対応や会場内の巡回などを担当する給与が支払われるスタッフの募集は、13日から始まります。

募集人数は、▽週に5日ほどフルタイムで働く「コアクルー」と▽週に1日以上働く「サポートクルー」あわせておよそ600人で、遠方に住む「コアクルー」には宿舎も用意することになっています。

これ以上、費用は増えない?

大阪・関西万博の会場建設費は、これまでに2度「上振れ」しています。

誘致当初の計画では、1250億円。

ところが、2020年、来場者の暑さ対策や「大屋根」の設計変更などを理由に1850億円に引き上げられました。

そして、去年、資材価格や人件費の高騰などを理由に、最大2350億円に引き上げられました。

会場建設費は国、大阪府・市、それに経済界の3者が、3分の1ずつ負担する仕組みになっています。

このうち国は、会場建設費とは別に政府が出展するパビリオンの建設費などを負担することになっています。

また、運営費も、人件費や会場外での雑踏対策の費用が膨らんだことなどから、当初の想定から4割余り多い1160億円にのぼるとしています。

「さらに費用がかさむのではないか」という懸念の声が上がるなか、政府は費用が適正かどうか、検証や点検をするため、公認会計士や弁護士などの有識者を集めた万博の予算監視委員会を設置し、ことし1月に初会合を開きました。

また、博覧会協会も、運営費の執行状況を管理する「運営費執行管理会議」を立ち上げ、3月、初めてとなる会議が開かれました。

予算を管理する最高財務責任者CFO財務省出身の副事務総長が務めることになっていて、全体の費用がさらに膨らまないよう管理を徹底することにしています。

建設工事や運営をめぐり懸念の声も

大阪・関西万博をめぐっては、自前でパビリオンを建設する国の一部から、建設工事や開幕後のパビリオンの運営をめぐって、懸念の声も上がっています。

オーストラリアの政府代表 ナンシー・ゴードン氏
「万博に限ったことではなく、国際イベントで価格高騰の問題に直面している。予算内におさめるため、パビリオンの機能性を失わせることなく、慎重に変更を加えた」

また、開幕までに間に合うか懸念を示す国もあります。

チェコ政府代表 オンドジェイ・ソシュカ氏
チェコの建設計画は規模も大きく、およそ400日後の開幕に間に合わせるのはとても難しい状況だ。およそ50か国が同じような時期に独自のパビリオンを建てることになり、開幕までに間に合うかは博覧会協会にとっても大きな挑戦だろう」(3月初めに建設現場を見学した際の発言)

万博開幕後のパビリオン運営についても懸念を示す国があり、NHKの取材ではポルトガルやスイス、オーストリアは、パビリオンの日本人スタッフを確保できるか懸念を示していました。

また、国際情勢も各国の出展に影響しています。

中東のイスラエルはもともとタイプAでの出展を想定していましたが、博覧会協会が準備する建物で複数の国が展示を行う「タイプC」という方式で出展すること決め、3月、日本政府に通知しました。

イスラエル大使館によりますと、イスラム組織ハマスとの戦闘によって予算や資源が国防に費やされるなか、「タイプC」に決めたということです。

さらにロシアは、去年11月にフランスで開かれたBIE=博覧会国際事務局の総会で「主催者とのコミュニケーションが十分にとれない」などとして万博に参加しないことを明らかにしました。

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる日本や欧米の姿勢に反発した可能性が指摘されています。

ロシアについて、日本政府は、命の大切さなどをテーマにした趣旨にそぐわず、万博参加は想定していないとの見解を示しています。

ミャクミャクなどがラッピング 新幹線が運行

開幕まで1年となった13日から、山陽新幹線などで万博の公式キャラクター、ミャクミャクなどがラッピングされた車両が走り始めました。

JR西日本などでは、万博への機運を高めようと13日からラッピング新幹線の運行を始めました。

午後2時ごろに新大阪駅に到着した鹿児島中央行きの列車には、乗車口付近に万博のロゴマークやミャクミャクが描かれていて、早速乗客が写真を撮るなどしていました。

JR西日本によりますと、万博のラッピングは山陽新幹線のほか、東海道新幹線九州新幹線北陸新幹線を走る一部の列車に施され、万博が閉幕する来年の10月まで運行するということです。

JR西日本では、すでに大阪環状線などでも万博仕様のラッピング列車を運行していて、万博プロジェクト推進室の綿島崇倫課長は、「開幕まで残り1年となり、時間も限られていますが、大阪近辺だけでなく、全国に展開する新幹線で盛り上げていきたい」と話していました。

開幕まで1年 都内でイベント 魅力をPR

13日は、都内でイベントが開かれ、最初に、実施主体の博覧会協会のトップを務める経団連の十倉会長が、「1年後のきょう、会場に世界中の人々が集まり、わくわくする未来に向けて歩みを始める姿を思い浮かべながら、万博をすばらしいものに仕上げていきたい」とあいさつしました。

このあと、大阪大学石黒浩教授や映画監督の河瀬直美さんらテーマ別のパビリオンを担当するプロデューサー8人が参加したトークセッションが行われました。

このなかで、プロデューサーたちは、各パビリオンで、1000年先の人間の姿を表現したアンドロイドの展示や、食を通じて命を考える展示などが計画されていると紹介し、万博の魅力をPRしました。

また、イベントでは、万博会場でスタッフが着用する公式ユニフォームも発表され、ファッションショーの形式でお披露目されました。

大阪・関西万博は来年4月13日から10月13日までの184日間開催される予定です。

岸田首相「一丸で準備進め 成功に導いていこう」

岸田総理大臣は、イベントにビデオメッセージを寄せました。

この中で「分断と対立で先行きが不透明な時代に、地球上のすべてのいのちを輝かせるために求められているのは、世界の未来の可能性に想像力の翼を広げ、行動を起こしていくことだ。万博がそのきっかけとなることを期待したい」と述べました。

そのうえで「自治体や経済界、政府の関係者が一丸となってオールジャパンで準備を進め、未来を切りひらく万博をともに作り上げ、成功に導いていこう」と呼びかけました。

街頭で開催中止など訴える動きも

大阪市では、街頭で万博の開催中止などを訴える動きもありました。

この訴えを行っているグループは、大阪市役所の前で座り込みやビラ配りなどを行っていて、12日の午前中は、およそ30人が参加しました。

グループは、万博会場の夢洲は、ゴミを焼却した灰などで埋め立てられているため危険だとしたうえで、大阪・関西万博の開催や夢洲で予定されているカジノを含むIR=統合型リゾート施設の建設計画を中止し、それらの整備費などを能登半島地震の被災地の支援に使うよう訴えています。

グループの山川義保事務局長は、「能登半島地震で多くの人が被災して苦しみ、重機や人手なども足りない状況で万博を開催する意味を行政には考えてほしい」と話していました。

専門家 “丁寧な説明が不可欠”

万博の歴史に詳しく、大阪・関西万博の誘致にも関わった大阪公立大学橋爪紳也特別教授は、万博への関心が高まっていない現状について、「博覧会協会や政府は、万博の趣旨や目的をもっと熱意をもって国民に伝えるべきだ。『万博を契機に私たちの街や社会がどう変わるのか』という点を説明していかなければ、関心は高まらないだろう」と指摘しています。

また、会場建設費や運営費が当初より上振れし、批判の声が上がっていることについては、「どこに、どれだけの予算がなぜ必要なのか、説明が十分ではなかったのではないか。説明していかなければ、多くの人の理解を得られず関心も高まらない」と述べ、予算の使いみちについても丁寧な説明が不可欠だと強調しています。

さらに、海外パビリオンの建設が遅れている状況については、「ホスト国である主催者側の建設工事の発注が先に進み、外国館が遅れているのは問題だ」と述べ、開幕までの残り1年間、参加国に寄り添い希望する出展を実現させることが重要だと指摘しています。