万博開幕まで1年に関する社説・コラム(2024年4月14日)

大阪万博まで1年 国挙げて準備加速したい(2024年4月14日『産経新聞』-「主張」)

 

「大阪・関西万博 開幕1年前イベント」 公式ユニホーム発表。お披露目されたユニホームを着るモデルとミャクミャク=13日午後、東京都港区(安元雄太撮影)

 

 2025年大阪・関西万博開幕まで1年を切った。会場予定地で建設中の大屋根(リング)は8割方組み上がり、各施設やパビリオンの建設工事も本格化している。

 だが機運の高まりは十分とは言い難い。

会場建設費をめぐっては建設資材の高騰などで2度上振れし、当初の1・9倍の2350億円に膨張した。費用がさらに拡大する懸念や、海外パビリオンの準備の遅れなどは、盛り上がりを欠く要因にもなっている。

 万博は国家事業である。政府は責任をもって着実に進めるとともに、魅力や意義を国民にもっと発信することが必要だ。

 経済産業省が会場建設費のさらなる増加を防ぐため、第三者委員会を設置し、万博費用の点検などを行っているのはよいが、税金を投入している以上、費用に対する不安の払拭に一層努めることが求められる。

 海外パビリオンは、自前での建設を予定している53カ国のうち14カ国が着工済みである。だが、17カ国は施工会社も決まっていない。今月から建設作業員の時間外労働に上限が設けられ、工程管理はさらに難しくなっている。政府は大阪府・市、万博を運営する日本国際博覧会協会などと連携し、スピード感をもって進めてもらいたい。

 万博の開催を監督する国際機関、博覧会国際事務局(BIE、本部パリ)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は11日に大阪市内で行った記者会見で、ロシアのウクライナ侵略やガザ紛争などが起きていることを踏まえ、「世界が団結する機会になる、世界にとって重要な万博だ」と改めて意義を強調した。「未来に、人類に大きな影響を与える」とも語った。

 「いのち輝く未来社会のデザイン」をうたう大阪・関西万博は、令和7年4月13日から半年間、大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)で開かれる。平成17年に行われた愛知万博の120カ国を上回る161カ国・地域が参加を表明しており、約2820万人の来場が想定されている。民間シンクタンクの試算によると、経済波及効果は最大3兆3667億円に上る。

世界が一つになって描く万博を成功に導く。開催国としての責務を果たすために、国を挙げた取り組みをより加速させるときだ。

 

万博開幕まで1年 期待乏しく高まらぬ関心(2024年4月14日『新潟日報』-「社説」)

 

 開幕1年前になっても関心が高まっているとは言い難い。諸課題を解消して前向きな情報を発信し、開催機運を盛り上げていけるかが試されている。

 2025年大阪・関西万博は、13日で開幕まで1年となった。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、多くの国々や企業、自治体などが出展する100以上のパビリオンが建つ予定だ。

 会場となる人工島・夢洲(ゆめしま)では、巨大屋根「リング」が組み上がってきたものの、海外パビリオンの予定地は更地が目立つ。

 会場整備費はこれまでに2度、上振れし、2350億円と当初の1・9倍になることが判明した。さらに海外パビリオンの建設遅れや、運営費の増加が明らかになるなど暗い話題が続いてきた。

 物価高による資材高騰や人件費の上昇、人手不足などが背景にあるとはいえ、相次ぐ問題の浮上によって、万博への期待感が高まっていない側面は否めない。

 大阪府大阪市のアンケートでは、万博に行きたいと答えた人の割合が下がり続け、昨年12月には33・8%に落ち込んだ。

 整備費350億円の巨大屋根「リング」、2億円の「トイレ」などの施設は「無駄」「高い」と批判された。能登半島地震の発生を受けて、万博の開催中止や延期を訴える意見も出ていた。

 公金を投じる以上、国民の理解を得ねばならないのは当然だ。

 一方で、肝心のパビリオンの展示内容については、あまり話題になっていないことが気がかりだ。

 1970年の大阪万博は「月の石」、2005年愛知万博は「冷凍マンモス」が目玉となった。

 今回の万博では、スズキなどが準備中の「空飛ぶクルマ」も呼び物の一つにはなり得るだろうが、パビリオンの中身などの詳しい情報が不足している。

 共同通信社が、参加・出展する民間企業などに行ったアンケートでは、約6割が「展示内容に関する広報体制の強化」を望んだ。

 政府や、大阪府大阪市日本国際博覧会協会(万博協会)には、情報を公開し、丁寧に説明する姿勢が求められる。

 子どもらの想像力をかき立てるような展示を、しっかりと用意してもらいたい。

 万博では、本県も「県の石」のヒスイや錦鯉の展示、食をテーマにした催しなどを計画している。

 国内外へ「ニイガタ」をアピールできるよう知恵を絞りたい。

 

大阪・関西万博まで1年 現実変える道を照らせ(2024年4月14日『山陰中央新報』-「論説」)

 大阪・関西万博が1年後に始まる。政府主導で準備は加速してきたが、万博がやって来るのを心待ちにする「わくわく感」が広がる気配はない。参加国のパビリオンを建設する契約が遅れていることが分かり、万博への不安や不満が広がったのは昨年夏のことだ。会場整備費は膨らみ、開催中止や延期を求める意見もまだくすぶっている。

 東京五輪の不祥事に続き、大阪・関西万博が失敗すれば、国際的な大型イベントを日本で開催する機運は急速にしぼむだろう。政府、日本国際博覧会協会、大阪府・市は一層の緊張感をもって臨まねばならない。

 パビリオンの建設は参加国の約3分の2と契約にこぎ着けたが、気を緩めるわけにはいかない。万博協会は会場を取り囲む巨大な木造屋根「リング」ができる10月末までに大型の建設工事を終えたいとしており、残る3分の1の国との交渉を急がねばならない。建物ができた後は展示やイベントのための内装工事が続く。開幕に間に合わなければ、来場者を失望させ、出足からつまずきかねない。

 会場整備費は最大2350億円とされ、開催が決まった2018年の1・9倍に膨らんだ。資材や人件費の上昇は続いており、博覧会の費用を企業の資金拠出や入場料などで賄えない事態になれば、閉幕後は赤字の穴埋めが必要になる。

 19世紀から万博を10回以上開いてきた米国は、1984年のニューオーリンズ万博が大赤字になったのを最後に、開催から遠ざかった。米国内で万博を敬遠する雰囲気が広がったからだ。大阪・関西万博が赤字に陥れば、日本でも同じことが起きかねない。

 大阪・関西万博への期待が広がらないのは、準備の遅れや経費ばかりが焦点になっているからだろう。ネットとデジタルの時代にあえて博覧会を開き、各国の技術、産業、文化に直接触れることの意味をあらためて考える時期だ。

 万博協会や政府は「いのち輝く未来社会」というテーマが具体的にどう表現されるのか、もっと分かりやすく発信する必要がある。万博の使命は次世代に希望をつなぐことだ。子供や若者の来場を促し、安全に見学できる環境をつくる知恵を絞り続けてほしい。

 170年を超える万博の歩みには負の遺産もある。20世紀初めのセントルイス万博(米国)では、植民地の先住民が展示物のように扱われた。当時の差別的な風潮を反映したこの試みは帝国主義国家の過ちとされる。

 一つの展示によって歴史に刻まれたのは、欧州に戦雲が垂れ込める37年に開かれたパリ万博だ。ピカソが傑作「ゲルニカ」を出品し、無差別爆撃の非道を訴えた。

 21世紀の万博は地球温暖化、自然との共生、エネルギー、水資源などをテーマに掲げ、課題解決につながる科学技術や芸術を発信してきた。

 ウクライナの戦乱はやまず、イスラエルによるガザ攻撃は深刻な人道危機を引き起こしている。国内でも能登半島地震の被災者がつらい日々を送っている。

 世界の分断が深まる中で開かれる大阪・関西万博は、生命を尊び平和を希求する博覧会のはずだ。

 未来を見据えた技術や、多様性を重んじる文化が、過酷な現実を変革する道を照らし出す祝祭になることを期待したい。