「コスパ良し」ファーム観戦がアツい理由 記者が教えます 発掘「推し」選手と近距離で…プロ野球2軍戦(2024年5月2日『東京新聞』)

 
 プロ野球セ・パ両リーグが開幕して迎えた球春。リーグ制覇、日本一を目指す12球団による熱戦が続く一方で、2軍戦にも注目したい。今季から2球団増えて14球団になり、選手は無名の若手や期待のスター候補、故障明けのベテランなどさまざま。観客数が数百人ということもざらだが、1軍と違った魅力を探してみるのも面白い。(運動部・井上仁)

◆今季から2球団増えて14球団に

 プロ野球の1軍公式戦に出場できるのは、各球団とも支配下登録選手(上限70人)のうち29人(今季は感染症拡大時に備える特例で31人)まで。そこから漏れた選手は2軍所属になる。これから力を付ける若手や支配下登録を目指す育成選手、不調や故障明けで調整中の選手らが汗を流す。プロ野球を統括する日本野球機構NPB)では英語の「農場」「育てる」を意味する「ファーム」とも呼び、3軍や4軍を持つ球団もある。

◆オールスター、日本選手権もある

 2軍リーグは1軍のセ・パ両リーグと異なり、イースタンとウエスタンに分かれる。今季から2球団増えて14球団体制になり、関東、新潟より東側に本拠地を置くイースタンが8球団、静岡から西側のウエスタンが6球団。3月中旬に開幕し、リーグ間の交流戦を合わせて各球団約140試合を予定している。平日を含めて大半がデーゲームで1軍の本拠地球場を使うこともある。7月に「フレッシュオールスターゲーム」、10月には両リーグ優勝チームによる2軍チャンピオン決定戦「ファーム日本選手権」が開催される。

◆「2軍の帝王」も目指すは1軍

 3軍戦もあるが、公式戦ではなく、相手は他球団の3軍や独立リーグ、社会人チーム、大学など。2軍でも出番が限られる若手や育成選手の実戦の場となっている。同じプロ野球選手でも待遇は1軍と大きく異なる。野球協約が定める支配下登録選手の年俸の最低保証額は420万円だが、1軍に年間150日以上在籍した場合は1600万円と4倍近くになる。
 2軍はあくまで育成や調整の場。2軍で圧倒的な成績を残しながら、1軍では活躍できない選手が「2軍の帝王」などと呼ばれることもある。昨年のファーム日本選手権で優勝したソフトバンク小久保裕紀監督(現1軍監督)は「ここが最終目的地ではない」「最終的には1軍の優勝決定戦で活躍できるような選手が出てほしい」と奮闘を呼びかけた。

◆野球の裾野を広げる「2軍拡大構想」

 2軍公式戦には今季から、静岡県の新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」と、新潟県に本拠地を置く「オイシックス新潟アルビレックスBC」の2球団が参加している。くふうハヤテがウエスタン・リーグオイシックスイースタン・リーグに所属する。
 くふうハヤテは金融事業などを手がける「ハヤテグループ」(東京都)が新たに創設した球団。球団名は不動産や結婚式関連の企業グループの持ち株会社「くふうカンパニー」(同)がネーミングライツを取得している。オイシックスは2006年設立で、昨季まで独立リーグのルートインBCリーグに所属。食品宅配会社「オイシックス・ラ・大地」(同)がメインスポンサーになっている。
 
 プロ野球は1958年からセ・パ6球団ずつの12球団になった。以来、買収などで親会社が変わることはあったが、球団数の増加は66年ぶり。2022年から「2軍拡大構想」の議論が始まり、野球の裾野拡大や地域の発展を目的に、公募と審査を経て両球団が決まった。

◆観客数は多くて2000~3000人ほど

 ただ、両球団に1軍はなく、あくまで2軍戦への参加のみ。ドラフト会議での選手獲得も認められていない。NPBは「1軍のエクスパンション(拡張)は考えていない」と将来的な”昇格”は想定していないとしている。
 2軍戦の観客数は多くても2000~3000人ほどで、数百人の試合も珍しくない。両球団とも従来の12球団より格段に小さい事業規模の中で、経営の安定や戦力の維持が求められる。ともに地域密着に力を入れることで、集客や新たなスポンサー獲得など支援の広がりを目指す。
 プロ入りを目指す選手にとっては大学や社会人チーム、独立リーグに並ぶ選択肢になる。2軍とはいえNPB球団と年間100試合以上対戦でき、アピールの機会が多い。活躍次第でNPB経験者は12球団に移籍可能で、それ以外の選手はドラフト会議での指名を目指す。

◆入場料は1000~3000円台 無料の場合も

 各球団とも2軍の本拠地球場は1軍とは別にある。練習や試合が行われるほか、最新の測定機器などを備えたトレーニング施設が併設されていたり、選手寮が近くに置かれていたりする。1軍の選手が練習で訪れることもあり、見学や「出待ち」をするファンの姿も。中日(名古屋市)や西武(埼玉県所沢市)のように1軍と2軍の本拠地が同じ市内にある球団もあれば、日本ハム(1軍が北海道北広島市、2軍が千葉県鎌ケ谷市)など県をまたぐ球団もある。
 2軍戦の入場料はおおむね1000~3000円台で、数万円するシートもある1軍戦と比べて安く、お手頃な設定だ。ロッテのロッテ浦和球場さいたま市)や広島の由宇練習場(山口県岩国市)など、無料で観戦できる球場もある。

◆選手との距離の近さも魅力

 球場によっては客席の数が少ない、トランペットなど鳴り物を使った応援は禁止、酒類の販売がないなど、観戦環境は1軍とだいぶ異なる。1軍のような華やかさはないが、その分、気軽な雰囲気で「推し」の選手を応援したり、無名の若手をチェックしたりと、2軍ならではの楽しみ方もある。球団側も施設見学ツアーや選手との写真撮影会など、1軍に負けず劣らずファンサービスの充実を図る。
 近年は施設の老朽化などに伴う改修・移転の動きもある。ヤクルトは2軍の球場や選手寮を現在の埼玉県戸田市から茨城県守谷市に移し、27年から利用する予定。ロッテは今年2月、地方自治体を対象に新たな2軍本拠地の公募を始めた。巨人はよみうりランド遊園地(東京都稲城市)の隣接エリアで2軍戦などに使う新球場を建設中で、25年3月に開業する予定。併設される水族館なども合わせたグランドオープンは26年度中を予定している。