日本版DBS 議論と見直し重ねるべき(2024年3月30日『福井新聞』-「論説」)

 政府は、教師や保育士など子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」創設法案を国会に提出した。子どもの安全を第一に考え、規制に抜け道を残さないため法案審議で細心の注意を払うのは当然だが、一方で憲法で保障された「職業選択の自由」を損ないかねないとの懸念は根強い。混乱を招かないよう、解雇を巡る判断基準などを詰め、ガイドラインでできるだけ具体的に示す必要がある。

 英国のDBS(前歴開示・前歴者就業制限機構)がモデル。犯罪歴があれば、学校や保育所などの雇い主は求職者に職種を変えるか就労を諦めるよう求め、既に働いている人の場合は解雇もあり得る仕組みにする。犯罪歴はなくても、子どもや保護者から性被害の訴えがあり、雇い主が「加害の恐れがある」と判断したら、配置転換などを行わなくてはならない。

 雇い主が性犯罪歴の照会を申請し、こども家庭庁が法務省に確認し「犯罪事実確認書」を出す。裁判で有罪判決が確定した「前科」に限定し、示談などによる不起訴処分は含まれない。条例違反も対象。懲役刑や禁錮刑なら刑を終えて20年、罰金刑以下は10年の間、照会できるようにした。公的な監督が及ばない学習塾や放課後児童クラブなどには任意の参加を促す。

 政府は有識者会議の提言を踏まえ昨年秋、創設法案を提出しようとしたが、与党や被害者団体から規制が不十分と批判や注文が続出し断念。当初想定していた採用時の犯罪歴確認を、既に働いている人にも広げ、場合によっては解雇を容認する方針を打ち出した。

 幼いころに受けた心身の傷は、トラウマとなって残る可能性がある。福井県内でも児童らが被害に遭うケースが相次いでいる。子どもへの性加害が後を絶たない昨今、厳しい就業制限はやむを得ないのではないか。教員や保育士にとどまらず、運転や給食などの業務に関わり、子どもの近くに身を置く職種についても対象にすべきだとの意見もある。

 法整備は急務だが、日本版DBS創設法が成立しても全てが解決するわけではない。子どもの訴えなどで性加害の事実関係を調べる際、第三者がチェックしたり、助言したりする態勢も整えておく必要があろう。

 加害者の治療や子どもと接触しない業種への職業訓練、あっせん、再犯を防ぐプログラムの充実などにも並行して取り組むべきだ。あらゆる対策について議論と見直しを重ねていかなくてはならない。