離婚前の妊娠でも再婚相手の子に 4月から改正民法施行、内容を詳しく解説します(2024年4月18日『河北新報』)

民法の親子法制の改正内容を説明する法務省の資料

 結婚中に妊娠して、離婚後に出産した場合、父親は誰になるのでしょう? 戸籍上の親子関係について規定した民法が4月1日から改正施行され、法的な父親の扱いが変わりました。これまでDNA鑑定で生物学的な父子関係が否定されても、認められないことのあった法的な父子関係の解消もできるようになりました。関係解消は、改正法施行前の過去の事例でも、来年3月まで1年間限定で訴えることができます。複雑なので、順を追って説明します。(編集部デジタル班・勅使河原奨治)

嫡出推定、126年ぶりの見直し

 まずは大前提として、法律上で父子関係とされる「嫡出(ちゃくしゅつ)推定」についてです。嫡出子は、法律婚の夫婦の間に生まれた子どものことです。民法は、改正前も改正後も結婚期間中に生まれた子は、生物学的なつながりに関係なく夫婦の子、嫡出子とみなします。さらに離婚しても300日以内に生まれた子どもの法律上の父は、前夫とみなす決まりになっています。

 母は子どもを産んだ本人なのに対し、父は「推定」となるところがポイントです。300日は胎児が母のおなかの中にいる期間を想定し、結婚期間中、お互いに不貞行為がないことが前提です。血液型やDNA鑑定のなかった1898(明治31)年の民法施行で定められました。嫡出推定の見直しは126年ぶりです。【図1】

図1

 改正民法は、現状の嫡出推定を維持したまま、例外をつくりました。離婚後300日経過する前に再婚して、子どもが生まれた場合、再婚後の夫を法律上の父とみなすことにしたのです。言い換えれば嫡出推定の父が再婚後の夫に移ったということです。

 これに合わせて、旧民法で女性にだけ禁止されていた離婚後100日以内の再婚が認められるようにもなりました。さらに、結婚から200日経過する前に生まれた子も嫡出推定で夫婦の子と扱われるようになりました。再婚せずに離婚後300日以内に子どもが生まれた場合は、前夫が父となるのは前述の通りです。

 改正民法は、新たに母と子に「嫡出否認」という父子関係を否定する手続きを認めました。旧民法では父だけに認められていた権利です。手続きできる期間は出生から3年になります。

 嫡出推定の父が再婚相手に移ることに合わせ、前夫にも嫡出否認する権利が認められました。生まれてきた子の父が自分だと訴えるためです。期間は子どもの出生を知ってから3年です【図2】

図2

 嫡出否認の権利を母と子に拡大するようになった背景に出生届が出されていない無戸籍者の問題があります。法務省の資料によると、2023年4月時点の無戸籍者は779人で、そのうち約73%に当たる568人は旧民法の嫡出推定が原因でした。出生した子どもの父が旧民法の規定で、前夫になることを嫌がった母が出生届を出さなかったためです。

 DNA鑑定の結果で簡単に父子関係を解消できそうにも思えます。しかし旧法下では、そうではありませんでした。

 最高裁は2014年7月、DNA鑑定で99・99%の確率で別人と生物学的父子関係の親子について、親子関係不存在を認めない判決を出しました。子どもの身分の法的安定性を保持する必要があると判断したためです。

 何年も親子関係で育てられてきた子がDNA鑑定で突然父を失ったり、相続などで利害関係者が父子関係の分断を図ったりできないようにするためです。そのため改正民法で「嫡出否認」の訴えを起こせる期間を、母子は出生から3年、夫もしくは前夫は出生を知った時から3年と、短く区切っています。

女性や子どもの権利が拡大

 旧法下は前夫に嫡出否認の訴えを出してもらい、父子関係を解消してもらうことはできました。ただ、それは女性にとって恵まれたケースともいえます。ドメスティックバイオレンス(DV)が理由で前夫と接触したくない場合や、離婚できない場合には活用しにくい制度でした。そもそも決定権が男性に限られているという不平等もあり、無戸籍児が増える要因となっていました。

 改正民法は過去のケースにさかのぼって来年3月31日までの1年間限定で救済措置を設けました。これまでDNA鑑定をしても認められてこなかった法的父子関係の解消に関して「24年4月1日より前に生まれた子やその母も嫡出否認の訴えを提起できます」(法務省民法・親子法制改正のPDFより)としています。

 女性や生まれてくる子どもにとって、これまで以上に権利が拡大したことは確かです。それでもまだ不十分という声もあります。嫡出推定が再婚後の夫に自動的に変わる一方で、事実婚だった場合は、認知や嫡出否認の手続きが必要です。また嫡出否認で前夫と接触せずに手続きができるような運用の充実も求められています。

 「Q&A 親子の法と実務」の著者で、親子問題に長年取り組んできた仙台弁護士会の小島妙子弁護士は「子を出産した母が自らの権利として、生物学上の父子関係を伴わない嫡出推定を否認することができるようになった点は、重要な意義がある。今後の課題としてDVなどで離婚・再婚できない場合についても法改正が進むことを期待する」と話しています。