ストーカー対策 加害者を治療につなげるには(2024年4月18日『読売新聞』-「社説」)

  執拗しつよう なストーカーの被害が後を絶たない。殺人などの重大事件に至ることもある。取り締まりの強化に加え、加害者の執着心を薄れさせるための治療も進めるべきだ。


 全国の警察が昨年、つきまといや待ち伏せを即座にやめるよう、加害者にストーカー規制法の禁止命令を出した件数が、過去最多の1963件に上った。

 ストーカー規制法は、埼玉県桶川市で起きた女子大生殺人事件を機に、2000年に施行された。法改正により、17年からは、緊急時に事前の警告がなくても禁止命令を出せるようになった。

 しかし、命令を出してもストーカー行為が収まらないケースもある。昨年はJR博多駅の前で、禁止命令を受けた男がその2か月後、元交際相手の女性を刃物で殺害する事件が起きた。

 命令を出して終わりではなく、その後も加害者の行動や心理状態などを確認することが重要だ。

 警察は先月から、禁止命令を受けた加害者全員の近況を電話や面談で本人に確かめる取り組みを始めた。依然として加害者に強い執着心があると分かれば、被害者に連絡して注意を促している。

 一方、加害者には、精神科医やカウンセラーに相談するよう積極的に勧めるという。異常な執着心や支配欲を弱めるには、医学的な措置が有効だとされるからだ。

 警察は、加害者に対応する際、治療の重要性を理解させるよう努めてほしい。カウンセラーを警察に呼び、加害者と面談させることなども検討してはどうか。

 被害者、加害者双方の弁護士が、ストーカー被害の解消に向けた交渉の場で、医療機関の受診を約束させることも有効だろう。

 なかなか受診しない場合は、加害者の家族に連絡して、協力を求めることが必要だ。

 近年はSNSのメッセージを大量に送りつける行為や、GPS(全地球測位システム)の端末を相手の持ち物に無断で取り付けて居場所を探る行為も目立つ。

 情報機器の発達で手口は巧妙化、多様化しており、被害者側の自衛には限界がある。加害者と治療を結びつけることと併せて、ストーカー行為を未然に防ぐ方策も考えなければならない。

 加害者は、思いが届かない相手に、一方的に怒りを増幅させる。そうした感情に陥らないよう、普段から本を読んだり、文章を書いたりして、内省を深めることが重要だ。学校や家庭での情操教育の大切さを再認識したい。