事件を起こした張本人こそ反省の意を込め、自ら厳しい再発防止策を示すのが当然の責任であるはずだ。独自の改正案作りさえ放棄する姿勢には、深刻な政治不信を招いた反省も、政権党としての責任感も見いだせない。
この期に及んでなお、できるだけ小幅な改正で済ませようとするなら、政治への信頼回復はさらに遠のく。連立政権への支持も大きく揺らぐことを自覚すべきだ。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて、自民、公明両党がきのう、政治資金規正法の改正に向けて実務者協議を始めた。
衆参両院には先週、政治改革特別委員会が設置され、各党は6月の国会会期末までの改正を目指す方針で一致。既に野党と公明党はそれぞれ改正案を示したが、肝心の自民党は改正案をとりまとめていない。
公明との協議で一致点を探り、与党案の形にするのだという。これでは最初から党としての主体性や改革への意欲が疑われても仕方がない。
党総裁の岸田文雄首相は改正のポイントとして(1)議員本人を含めた厳罰化(2)第三者による政治資金監査の徹底(3)デジタル化による透明性向上-の三つを挙げたが、具体性に欠け、踏み込みも足りない。
公明は会計責任者に加え、議員本人も責任を負う「連座制」や、政党から政治家個人に支出される「政策活動費」の使途の公開義務付けなどを掲げている。与党案がこれより後退した内容になっては、国民が決して納得するまい。
共同通信の世論調査(13~15日実施)によると、安倍、二階両派の裏金議員に対する党の処分が「軽い」との回答は65・5%で、「妥当だった」(26・8%)を大きく上回った。
さらに裏金事件の実態が「十分解明されていない」との答えは93・3%に達し、多くの国民が幕引きを急ぐ党の姿勢に厳しい目を向けていることが改めて浮かび上がった。
裏金事件の実態解明を進めるのはもちろん、法改正に当たって重要なのは、かねて指摘されている抜け道に網をかけ、誰もが容易にチェックできる仕組みを作ることだ。
見逃せないのは茂木敏充幹事長らが、資金管理団体から使途の公開基準が緩い後援会に巨額の資金を移していた問題だ。こうした操作で後援会支出の9割以上について使途を明らかにしないのは、意図的な脱法行為に他ならない。
違法な裏金づくりも脱法的な使途隠しも、政治活動を「国民の不断の監視と批判」の下に置くことを目的とした規正法の理念を自民党議員が自ら踏みにじってきたことに変わりはない。もはや「政治活動の自由」を口実に規制強化に抵抗するなど論外だ。
小手先の改正にとどまらず政治資金を抜本的に透明化できるのか。国民の側も監視を強めなくてはならない。