水原元通訳の違法賭博に関する社説・コラム(2024年4月17日)

米西部ロサンゼルスの連邦地裁に出廷した水原一平容疑者=法廷イラスト、AP

米西部ロサンゼルスの連邦地裁に出廷した水原一平容疑者=法廷イラスト、AP

 

開幕戦を前に記者会見に臨むドジャースの大谷翔平選手(右)と当時通訳を務めていた水原一平容疑者=ソウル市内で3月16日、坂口裕彦撮影拡大
開幕戦を前に記者会見に臨むドジャース大谷翔平選手(右)と当時通訳を務めていた水原一平容疑者=ソウル市内で3月16日、毎日新聞坂口裕彦撮影

水原元通訳の違法賭博 依存症の怖さ浮き彫りに(2024年4月17日『毎日新聞』-「社説」)

 ギャンブル依存症の怖さをまざまざと見せつけられた。

 米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の元通訳で、違法なスポーツ賭博をしていた水原一平容疑者の事件である。銀行詐欺容疑で米司法省に訴追された。

 借金返済のため、大谷選手の口座から1600万ドル(約24億5000万円)以上を違法なブックメーカー(賭け屋)に不正送金した疑いが持たれている。詐欺の手口から、当局は大谷選手を被害者とみている。

 水原容疑者は球団から解雇される前、チームメートに「ギャンブル依存症」であることを告白したという。耳を疑うのは、捜査で浮き彫りになった実態である。

 2021年12月から約2年間に合計約1万9000回、1日平均で25回も賭博を繰り返していた。日本円にして勝ち分は総額218億円、負けた金額は280億円に上るとみられている。

 身近な人気競技が対象のスポーツ賭博は、ギャンブルの入り口になりやすい。デジタル技術で瞬時にデータが分析されるため、勝敗だけでなく、個人成績やプレーにも賭けられる。

 カジノに行く必要もなく、スマートフォンやパソコンさえあればできる手軽さが、ギャンブル依存症に陥る危険性を高める。

 賭け事にのめり込んで自分をコントロールできなくなる。借金を重ねて家庭が崩壊するケースも後を絶たない。

 米国では18年に最高裁が州の判断でスポーツ賭博を合法化できる判決を下し、現在は全米50州のうち38州で解禁されている。

 ドジャースが本拠地を構えるカリフォルニア州のように、認められていない地域では違法な賭け屋が暗躍しているとされる。

 欧米では選手の関与が疑われる例も数多く報告されている。スポーツ関係者が自らの競技に賭ければ、八百長が起きる恐れもあり、公正さが損なわれかねない。

 日本でも経済産業省の研究会などでスポーツ賭博を解禁し、事業者からの税収をスポーツ振興に回す案が議論されている。

 だが、諸外国に比べ、日本はギャンブル依存症が疑われる人の割合が高いとのデータもある。リスクを軽視してはならない。

 

元通訳の訴追 62億円失った賭博の底なし沼(2024年4月17日『読売新聞』-「社説」)

 勝った時の快感が忘れられず、やめられない。負けを取り返そうと、かえって借金を重ね、その挙げ句、平気でウソをついて信用を失う。

 ギャンブル依存症の怖さをまざまざと見せつけられた。

 米連邦検察は、米大リーグ・ドジャース大谷翔平選手の元通訳、水原一平容疑者を大谷選手の銀行口座から1600万ドル(約24億円)以上をだまし取った銀行詐欺容疑で訴追した。

 発表によると、水原容疑者は違法なスポーツ賭博で生じた借金を返すため、大谷選手に無断で送金を続けていた。賭けの回数は、2年余りで計約1万9000回に及んだという。1日平均25回という信じがたい頻度である。

 勝ちは総額約1億4200万ドル(約218億円)、負けは約1億8300万ドル(約280億円)に上った。賭博で約62億円を失った計算になる。水原容疑者が賭博にのめり込み、金銭感覚をマヒさせていった様子がうかがえる。

 勝負に負けると、「最後にもう一回だけ」と、賭けの限度額引き上げをブックメーカー(賭け業者)側に懇願していた。負けを取り返そうと、深みにはまっていく典型的なパターンだと言えよう。

 不審な送金が露見しないよう、大谷選手になりすまして、銀行に電話をかけた。会計士や代理人に口座の確認を求められると、「大谷選手が非公開を希望している」などと説明し、拒否していた。

 賭博を続けるため、犯罪にまで及んだことをどうにか隠そうと、ウソにウソを重ねたのだろう。

 賭け業者側は、水原容疑者と連絡が取れなくなると、「大谷選手のところに行って、どうすればお前と連絡が取れるか聞いてみようか」と脅しをかけた。

 追い詰められた水原容疑者は、借金を肩代わりしたことにするよう、大谷選手に口裏合わせを依頼したが、断られた。破滅するまでやめられないところに、ギャンブル依存の深刻さがある。

 国内では、公営ギャンブル以外の賭博は禁止されている。しかし近年は、スマートフォンでいつでも賭けられる違法なインターネットカジノが横行しており、依存のリスクは高まっている。

 海外には、選抜高校野球の試合結果を予想するスポーツ賭博サイトまで開設されている。

 日本でも一時、スポーツ賭博の解禁を求める動きがあった。安易に導入すれば、どのような結果を招くことになるか。今回の事件は、明確に示している。

 

水原元通訳訴追 依存症の怖さ見せつけた(2024年4月17日『新潟日報』-「社説」)

 人生を台無しにするギャンブル依存症の怖さを、まざまざと見せつけられた。国や自治体はもちろん、社会を挙げて予防策、患者の支援策に取り組みたい。

 米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の元通訳・水原一平容疑者が、銀行詐欺容疑でロサンゼルスの連邦地検に刑事訴追された。

 違法賭博の借金を返済するため、大谷選手の口座から胴元側に1600万ドル(約24億5千万円)以上を不正に送金したとされる。

 連邦地検は、水原容疑者は送金のため、大谷選手を装って銀行に電話した疑いがあるとした。大谷選手の口座の連絡先が水原容疑者の電話番号などに変更された疑いもあるという。

 大谷選手は被害者として、事件との関与は正式に否定された。信頼していた水原容疑者に裏切られたショックを乗り越え、さらなる活躍を期待したい。

 驚くのは、水原容疑者が賭けに負けた金額の大きさだ。

 連邦地検によると、水原容疑者は2021年9月に違法スポーツ賭博を始め、24年1月までの2年余りで損失は総額4067万8436ドル94セント、日本円にして約62億3500万円に上った。

 この間、賭けた回数は約1万9千回に達し、1回当たり約200万円をつぎ込んでいた。

 負け分を取り返そうとさらに賭けを続け、雪だるま式に損失を増やしていった様子が浮かぶ。

 水原容疑者自身も認めているというギャンブル依存症の恐ろしさに背筋が凍る思いがする。

 ギャンブル依存症とは賭け事にのめり込み、衝動を抑制できなくなる精神疾患だ。

 日本国内ではカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)の開業準備が進んでおり、依存症患者の増加を懸念する声もある。

 水原容疑者がのめり込み、米国で急成長しているオンラインのスポーツ賭博は、日本でも経済産業省が21年にまとめたスポーツクラブ産業についての提言で触れられ、慎重に議論されている。

 ギャンブルで多額の借金を背負い、築き上げた人間関係を壊すような人が増えないよう対策を進めることは急務だ。

 国は18年にギャンブル依存症対策基本法を施行し、19年には対策の基本計画を閣議決定した。

 本県も22年、依存症の予防や治療支援などを進める県ギャンブル等依存症対策推進計画を策定している。同計画によると、依存症が疑われる人は県内で約4万人に上る。国内全体では推計300万人以上とされている。

 国や自治体は啓発活動に力を入れ、予防や相談、治療支援などに一層尽力してほしい。

 既に自覚があるという人はギャンブル依存症が病気であることを認識し、最寄りの保健所などに相談してもらいたい。

 

(2024年4月17日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 

 大学に入って友人に誘われ、パチンコをしたのが最初だった。就職後もやめられず、消費者金融を利用して1年半で借金は150万円になった―。40代男性の体験だ
内閣官房のホームページに「ギャンブル依存症」で苦しんだ多くの当事者の体験談が載っている。きっかけは特別なことではない。「簡単にのめり込んでしまうリスクを誰も教えてくれない」。当事者の訴えが切ない
ギャンブル依存症が改めて注目されている。米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の元通訳による違法賭博がきっかけだ。借金が桁違いなのは別としても、賭け事がやめられずに借金が膨らみ、周囲にうそをつき、犯罪に手を染めるのは他の当事者の体験と重なる
▼この依存症は精神疾患の一つで、日本でも4年前から保険診療の適用対象になった。懸念されるのはスマートフォンでできるネットカジノの利用者が増えていることだ
▼「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京)に昨年寄せられたネットカジノの相談件数は、新型コロナウイルス感染拡大前の12倍になった。背景にはコロナ禍で在宅時間が増えたことがあるようだ。高校生に関する相談や、借金返済のために「闇バイト」に勧誘された事例もあったという
▼国による実態調査も遅れている。調査と啓発を急がなければ被害者がさらに増えていく。